Mr.Childrenの部屋 ミスチルトップ かさこワールド

・IT'S A WONDERFUL WORLD ミスターチルドレン10周年10枚目のアルバム、その名も、
「IT'S A WONDERFUL WORLD」が今日、発売となった。
前回アルバム「Q」完成後、解散を考えたというミスチルが、
このアルバムで新境地を開拓し、新たなスタートを切った記念すべきアルバムなのだ。

先行シングル「優しい歌」「youthfuldays」「君が好き」の3枚を含む全15曲。
「深海」や「BOLLEO」、また「DISCOVERY」で、
重い荷物を背負って苦しみながら、強い使命感を持って悲壮に満ちて生きていくミスチルみたいな、
ある意味、重苦しいイメージがあったが、
「ポップに立ち返った」このアルバムの抜けの良さは、
前回の実験アルバム「Q」があったからこそ生まれたものだと言える。

特に「優しい歌」「youthfuldays」、この2シングルは、
音楽としての聞き心地の良さという点でも、楽曲としての完成度は非常に高いことを、
アルバムで改めて知ることになるだろう。

社会は決して素晴らしくもなんともない。
それどころか加速度的に世界は素晴らしくなくなっている。
そんな社会なんだけど、自分たちができることで少しでも前向きな方向に向けていこうっていう、
だからこそ今あのダークなミスチルが「IT'S A WONDERFUL WORLD」と歌っている。

つまりは重苦しい以前のミスチルを彷彿させるような「蘇生」が、むしろ前向きな「IT'S A WONDERFUL WORLD」で、
単純明快なLOVESONGを世界に向けて歌っていこうという「Dear WONDERFUL WORLD」的なはずの「LOVEはじめました」が、
むしろ現実世界の裏面をついているダークな側面を持っている曲で、
この2曲こそがこのアルバムのコインの表裏を表している、核的存在といえるのではないだろうか。

「ああ世界は素晴らしい」
もしそう言える社会だとしたら、「IT'S A WONDERFUL WORLD」というアルバムタイトルは存在しえないだろう。
世界は素晴らしくないからこそ、「IT'S A WONDERFUL WORLD」というタイトルが存在意義を持ち得るのだろう。

●overture

●蘇生
今度はこのさえない現実を夢みたいに塗り替えればいいさ

「蘇生」となんだか重苦しいタイトルがついているが、
僕が思うにこの曲こそアルバムタイトル「IT'S A WONDERFUL WORLD」と
名付けるべきだったのではないかと思うほど、
ダークな桜井君が「世界は素晴らしい」と言えるような、
非常に前向きでリズミカルな曲になっている。
歌詞からすれば「I'll be」や「ALIVE」を思い起こさせるような、
暗い現実の中でどう生きていくかみたいなことなんだけど、
その両曲に見られるような悲壮感がなく、前向きに自分で変えていこうという、
非常にポジティブな面が押し出されていて、いい感じである。
シングルとしても十分通用する、先行3シングルのミスチルなりの集大成的曲だと思う。

●Dear wonderful world
無駄なことなど きっと何一つないさ
今回のアルバム発売のタイミングで発信された桜井くんのインタビューで出てきた言葉。
いろんなことがあって今の自分がいる。
この曲はあくまでアルバム用にと、
これからはじまるミスチルワールドのプロローグ的位置づけ。
これにサビをつけて曲にしたものが、最後の「It's a wonderful world」。


●one two three
高らかな望みはのっけから持ってない
でもだからといって将来を諦める気もない
今の時代の若者を語った詩は、感情移入しやすい詩。
シリアスな詩なんだけど、つきぬけたようなポップ感が、
現代の悲惨なまでの惨状を、逆に滑稽にアイロニ−的に見せられる。
こういった手法を使えるようになったことが、
「深海」から桜井くんの伝えたい核は変わってないんだけど、
聴く者に優しい感じがするんだろうな。
そこにロックではなくポップの威力を再認識したミスチルの姿があるのだ。
ただ「1.2.3」がどうしても前作の「Everything is made from a dream」の
「1.2.3」という詩の曲イメージとだぶってしまうので、
タイトル名に一工夫欲しかった。


● 渇いたkiss
いつからか君は取り繕い不覚にも僕は嘘を見破り
落ちついたスローテンポのしっとりとした曲。
でも歌詞の内容は別れ。
別れで本当は辛いはずなんだけど、
妙にそれを冷静に受けてしまう自分自身に分析している。
そんな心情って多分極めて現代的な別れなんだろうな。
そういった感情のない別れみたいなものが、
今の社会にあふれてるからこそ、こんな曲が成り立つんだろう。
別れを劇的に歌うのではなく、こうしてさらりと歌い上げるところに、
ミスチルらしさがあるのではないか。


●youthful days
繋いだ手を放さないでよ 腐敗のムードをかわして明日を奪うんだ
もしかしたらミスチルの新境地の代名詞ともいえる曲が、
この「youthful days」であるかもしれない。
かっこよさ、リズミカルさ、新鮮さ・・・
ミスチルらしいかっこよさに満ち溢れた歌だなと思う。
こういう曲がもっと出てくるといいな。
時代的雰囲気をよく表し、くさくないLoveSong的詩がささやかなんだけど、
日常における「愛」みたいなものを再認識させる。

●ファスナー
きっとウルトラマンのそれのように総ての事にはファスナーが付いていて
桜井くんらしいフォークソング。
チープな詩がかえってスンナリと曲が頭に入ってくる。
もしソロになったらこんな曲が桜井和寿のシングルになるんじゃなかー。
そんな予感をさせる、名曲。
この曲の「ウルトラマン」「仮面ライダー」とか、
「フラジャイル」での「ドラえもん」だとか、そういった言葉がすごく曲の印象を深くさせるんだな。


●Bird Cage
お互いの両手は自分のことで塞がってる
現代の若いカップルの不幸を描いた詩。
こういった詩を見ると、想像してしまうのが桜井くんの離婚だ。
ポップ感に満ちたこのアルバムの中では最も異彩を放つ作品かもしれない。
それゆえ評価は難しいところ。
ただこんな曲が1曲あるからこそ、
ミスチルで表現できる曲の幅の広がりを感じられるのかもしれない。


● Loveはじめました
犯人はともかくまずはお前らが死刑になりゃいいんだ
世界は素晴らしいと歌い、明るく突き抜けたようなポップ感あふれるアルバムだからこそ、
この1曲は絶対に欠かせない核となる曲だ。
「世界は素晴らしい」と歌ったその裏にあるもの。
詩も多分一番今の桜井くんの直球。
「路肩に止まった車で売ってる何たらケバブ−をほおばる」
この辺のおもしろい詩も、最近よく駅のそばで見かけるトルコ人のケバブ屋を
思い起こさせて、時代の共感を感じる。
やっぱ気になってるところは一緒なんだというシンクロニシティが、
曲にアーティストに親近感を抱かせる。

「LOVE」って言葉が入っているから、
前向きなミスチルが大々的に「愛」を歌おうっていう意味ではあるんだけど、
この曲はまったくその逆で、今まで以上に毒気の強いダークなミスチルを全面丸出ししている。
それも「NOT FOUND」のカップリング「1999年、夏、沖縄」や、
アルバム「Q」収録の「友とコーヒーと嘘と胃袋」でみせたような、
まさしく「吉田拓郎」調の歌い方で、歌詞というより長い文章を読んでいくような手法で、
見事にそのダークさをうまいこと曲にしたなという感じだ。

中華屋が「冷やし中華はじめました」というところからヒントを得て、
「ミスチルもLOVESONGをはじめました」という意味を込めたタイトルなんだけど、
うれしくなってしまうほど、歌詞はドクドクしい。
やっぱりミスチルがいくら新境地とはいえ、毒気を抜いて、
ただ耳障りのいいLOVESONGだけを歌うようじゃ、その辺のバンドとの差異はなくなってしまう。

「殺人現場」で「中高生達が携帯片手にカメラに向ってピースサインを送る」
「犯人はともかく まずはお前らが死刑になりゃいいんだ」なんてなんと過激な言動だろう。
でも単に社会への痛烈な批判だけで歌詞が終始してしまわないのが、今までと違うところ。
そんなダークな社会なんだけど、「僕らは愛している人に愛してるというひねりのない歌を歌おう」
それがミスチルの意図した「IT'S A WONDERFUL WORLD」なんだ。

●UFO
腫れ物を触るみたいな核心を避ける話題
タイトルからもわかる通り、遊び心を入れた詩は、
おもしろいというより、意外にマッチしている。
もっとテンポアップしてもおもしろかったかもしれない。
こういう曲をライブでやるとCDで聴くのとは全く違った感想を与えるかもしれない。
アルバム曲らしく、聞いているとすごく味がある曲。


●Drawing
絵に描いたとしても時と共に何かが色褪せてしまうでしょう
先行シングル3枚のカップリング曲で入った唯一の曲だが、
このスローテンポなのどやかな曲が、
このアルバムの中では珍しく存在感が大きい。
ほっとする曲。
現実のはかなさから一歩踏み込んで、
君と一緒に歩いていこうという前向きな詩。


●君が好き

君が好き 僕が生きるうえでこれ以上の意味はなくたっていい

純粋なLOVESONGは多分この曲ぐらいではないか。
ミスチルには珍しいストレートなLOVESONG。
「君が好き」みたいな歌詞をこれまで多用せずに曲作りをしてきただけに、
かえってこうしてストレートに訴えかけることが、ぐっとくる。
名曲「抱きしめたい」以来のストレートな愛の歌ではないだろうか。


●いつでも微笑みを
もし僕がこの世から巣立って逝っても 君の中で僕は生き続けるだろう
そう思えばなんとかやっていけそうだよ
ミスチルの今の決意表明みたいな歌だな。
辛いはかない世の中だけど、「It's a wonderful world」と言えるように、
がんばって生きていこうじゃないかっていう。
でもそんなことを口笛にのせて軽やかに明るく歌い上げている。


●優しい歌

誰かの為に小さな火をくべるよな愛する喜びに満ちあふれた歌
シンプルゆえに力強い。
曲が3分半と非常に短いにもかかわらず、すごく印象深い。
それはリズミカルなサウンドとメッセージ性の強い歌詞が、心に響くからだろう。
この曲もまたミスチル新境地を切り開いた象徴的な歌になった。

●It's a wonderful world
忘れないで君のことを僕は必要としていて
アルバムの中ではエピローグ的曲。
3曲めの「」から、一挙に訴えかけるようなサビが印象的。
今のミスチルを、これからのミスチルがめざすべき道を、
端的に集約した曲。