上海レポート かさこワールド


2004年1月17日〜23日まで、上海取材で滞在した時のお話です。

目次:乳もみ100元/「日式クラブ」の大興隆/爆竹旧正月/夢のリニアモーターカー運行!/
・大規模開発の裏に強制立ち退きに抗議急増
/・自転車大国の「高度成長」

・乳もみ100元
上海の空港に21時過ぎに到着。
ホテルは予約していなかったが、どこに行くにも便利で、かつ上海一の繁華街である南京東路にある、
しかも1泊280元(4200円)という、上海の中心地にしてはわりに安い東亜飯店に泊まることにした。
年末に一度、上海に来ているだけあり、勝手しったる南京東路である。
ホテルのチェックイン手続きをすませると、わがもの顔に南京東路を歩き、夕食を探しにいく。

ホテルからめざすラーメン屋までたった100mかそこいらの距離の往復に、
僕は5人の男に話し掛けられた。

「乳もみ100元、安いね」
「イッパツ!イッパツ!イッパツ!」
「あなた一人、さみしいね。女ほしいね」
「ビュ〜〜〜ティフルレディ!」
「見るだけOK。美人いっぱいいるね」

年末に上海を訪れた時、このような誘いを一切受けなかった僕は、愕然とした思いだった。
せっかくの「上海」イメージがあとかたもなく崩れ去ってくる。
だいぶ、へこんだな。
やっぱり大都会は観光するべき場所じゃない。
年末の旅行は上海にわずか1泊しかいずに、
ずっと上海から離れた水郷村を旅していたのだから・・・。
水郷村の良さはすばらしかったな。それに比べ、上海は・・・
「チチモミ」「イッパツ」「オンナ」の嵐である。

必ずしも日本人だからといって話し掛けているわけではなさそうだった。
というのも、日本語でいきなり話し掛けられる場合もあったが、
そのほとんどはまず中国語で話しかけてくる。その次に英語。
つまり必ずしもターゲットは日本人でなく、
中国人に対してもこのような客引きをしているということだ。

ムカっときたのは最初の客引きだったな。
中国語で話し掛けてきた。
「ティンプドン(わからない)」とまともに答えたのがよくなかった。
「Where are you from?」
この時、僕は中国人ではないが日本人とはばれていなかった。
「いらない」
といった時、合点したように「おう、あなたは日本人ですか。どこ行くんですか?」と中年おやじが迫ってきた。

「めし」
「食事」
「ミーファン(ごはん)」
「吉野屋ですか?もう閉まってるよ」
うるせえ!ばろ。なんで上海にきて吉野屋いかなきゃあかんのか。

その後、私は大ホテルで働いて、今、仕事が終わったからいっしょに乳もみいこうという、
明らかにそんなことは嘘だとわかるおのこもいた。
英語で抑揚をつけて、美女たちがいることを流暢に話すものもいた。

なんか、すごくムカついてきた。

ぼったくれるから、金儲けができるから、英語や日本語が流暢になる。
なんかとても悲しいことだ。

上海ー資本主義社会の「発展」と「成長」とともに、
金がすべてものをいう社会価値観がうえつけられてくる。
金のためにはなんでもやる。
売る女も、声をかける男も。

眠れる獅子を覚ました中国は、さまよえる獅子となって大暴れしようとしている。
自分自身も傷つきながら。

上海は世界一の経済都市として間違いなく、ニューヨークや東京やロンドンを抜くであろう。
しかしその光の部分が大きければ大きいほど、影の部分も大きくなる。

中国は、上海はどこへ行くのか?

ちなみに南京東路はほとんど上海人は歩かないそうである。
いつも人でいっぱいなのは地方から上海旅行にきた中国人や外国人がほとんどだというのだ。

これも1つの上海のれっきとした現実。

・2.「日式クラブ」の大興隆
<1>
日本人観光客には馴染みがないかもしれないが、
上海に住む日本人駐在員や出張で来た日本人ビジネスマンの夜の世界のメインイベントが、
いわゆる「日式クラブ」で酒を飲むことである。
「カラオケ」「パブ」など呼び名はさまざまだが、この「日式クラブ」とは、
日本でいうところの「キャバクラ」というとわかりやすいだろうか。
ようは、日本語を話せる中国人の女の子がわんさかいて、そこで酒が飲めるのである。
上海在住日本人が2万人とも5万人ともいわれる上海にあって、
駐在員の夜の接待や楽しみとして、この「日式クラブ」が大流行しているのである。

上海には駐在員向けの日本語無料情報誌があり、ホテルや日本料理店などに置いてあるのだが、
その中面のほとんどは、この「日式クラブ」の広告だらけである。
またこの広告があるからこそ「無料」で冊子を発行できることがあるわけだ。

「日式クラブ」の存在を僕が知ったのは、2002年10月、フリーライター時の中国・大連取材時だった。
大連の女性ガイドさんと、友人である日本企業向けビジネスを手掛ける、
日本語を話せる中国人男性を紹介してくれ、取材が終わった夜、みんなでこの「クラブ」にいったのであった。
大連も日本企業が多く進出している経済都市であり、上海同様、クラブの広告まみれの無料情報誌がいっぱいある。

さてさて、上海では、上海に転勤した友人にこのクラブ事情を聞き、実際にあるクラブに連れていってもらった。
日本人が多くすむ、上海市内の西側、虹橋空港付近の、会社でよくいくクラブ。
入ってびっくりしたのは、その広さである。
「カラオケ」という名称で、カラオケボックスのような個室が、まるで日本の歌広場のようにいっぱいある。
こんなに部屋があるということはそれだけ需要があるんだなと、まずそのことにびっくりした。
だいたい店に入った時から、あちこちで日本人の日本語の歌声があちこちで聞こえているのだから。

案内されたのは、まさしくカラオケの個室といった感じ。
もちろんカラオケもあり、日本の歌も相当入っているらしい。
ただ「カラオケ」と違ってボトルを入れて飲むのが基本らしい。
だからまずボトル代が200〜300元(3000〜4000円)ぐらいかかる。
まあでもほとんどが駐在員がいくから会社でボトルを入れている。

そして驚くべきは、そのカラオケ部屋にずらっと8人ほどの女の子が並ぶ。
1人につき1人女の子がつき、それを自分で選べるというのだ。
僕と友人の2人で行ったので8人ぐらいしか出てこなかったが、
会社の宴会や接待などで行く際は、来る人が多いので、それこそ20〜30人ぐらい女性がずらりと並ぶらしい。
そんな「すさまじい」世界が、中国の大都市、特に日本企業が進出している都市では、当たり前のようになっているわけである。
こうして指名した女性と話をしてお酒を飲み、時にカラオケを歌う。

当然、日本人駐在員をターゲットにしているので中国人女性といえど日本語を話せるので、別に中国語で話すわけではない。
ただ女の子によって日本語を話せる度合いはかなり違う。
すごくしゃべれる人もいればほとんどしゃべれる人もいない。
僕についた女性はまったく日本語を話せなかった。
というのもこの店に入ってまだ1ヵ月だからという。
僕は別に上海に住んでいる日本人ではないので、
日本語を話せる中国人よりも、むしろ日本語を話せない方が、中国語の勉強になるからよかったのだが、
職場以外ではなかなか日本語を話すことがない駐在員にとっては、
たとえ会社の接待や宴会だろうが、リラックスできるアフター5まで、
中国語ではやっていられないのだろうから、日本語のできる女の子にチェンジしてしまうのが普通のようだ。

<2>
さてさて、その女の子と筆談による試行錯誤のコミュニケーションから聞いたことを総合して、ここに報告しよう。
それによって、高度成長、日本企業進出など、現代中国の現実の一端を知ることができるだろう。

彼女は四川省から来たという。地名を聞いたがどこだかわからなかった。
つまり日本人観光客がいくような大きな街ではないということだろう。
3ヵ月前に上海に出てきたという。
このように、地方から大都市に出てくる若者が後をたたない。
それはまさしく高度成長期の日本と同じ。
割りのいい仕事、金のいい仕事、大都会の憧れを胸に、地方から東京に出てきた昔の日本人と同じように、
急激な高度成長による、地方と都市の格差、貧富の格差が歴然となっている中国で、
若者が昔ながらの農業に携わるのを嫌がり、都会に出て仕事をしようというのは、資本主義社会の当然の流れである。
(ちなみに大連のクラブにいた女の子もハルピンから出てきたといっていた)

ここに勤めてまだ1ヵ月という。ほんとか嘘かはわからないが22歳といっていた。
こういった水商売で働くために上海に出てきたのか、
それとも上海に出てきたもののまっとうな仕事をみつけることができず、
否応なくてっとり早い水商売に職をみつけたのか、それとも、一度はまっとうな仕事についたが、
給料は少なく、でも都市での生活にはお金がかかり、水商売に転職したのかは定かではない。
ただなんでかはわからないが、今、住むところにお金はかからないらしい。
きっと水商売だからこそ、住居も手配してくれているのだろう。
他の地方都市から出てきたホステスもいっぱいいるのだろうから。
ちなみにこのクラブには60人ぐらい女性がいるらしい。

給料は1ヵ月いくらかと聞いたら、5000元(75000円)という。
これははっきりいってすごい。
あとで、まっとうな企業に勤める上海に住む中国人に聞いたところによると、
大卒の初任給はだいたい2000元(30000円)ぐらいらしい。
さすがは水商売、かつ日本企業相手である。
そりゃ、手っ取り早く金を稼ぐなら、このような日式クラブに勤める地方から出てきた女の子は増えるだろう。

ちなみにこれは僕の憶測だが、生まれも育ちも上海という人は、
意外とこのような水商売につくことは少なく、
こういった水商売に職を求める女の子のほとんどは地方から出てきた人ではないか。
大連の時も、日本語を使えるのを武器にガイドという職業を選んだガイドさんは大連出身だったし、
おなじく上海でも日本語を使えるのを武器に外資企業に勤めていた上海人は上海出身だったし。
それに上海に住んでいたら親と同居しているわけだから、
そのような夜の商売に手を出すことはなかなか難しいだろう。
地方から出てきた女の子なら親の目が行き届かないから水商売に手を出しやすい。

ま、これもはっきりいって、日本の東京と同じ状況であるかと思う。
都会が「おかしくなる」原因というのは、その土地に根をおろさない、地方出身者が出てくるからだ。
都会への過度な憧れが、おかしなブランドやおかしな流行品を生み、
中身のないテレビや雑誌に踊らされて、中身を自分の目で確かめずに、なんでもかんでも群がり、
新宿や渋谷といった繁華街に、わけもわからず、危険もしらずにぶらぶらする。
だからこそ、そこに、水商売、金貸し、ブランドなどが入り込むことになるのだろう。

話を中国に戻そう。
5000元という月給で驚いたのだが、あとで僕は気づくのだが、
この店では、店の料金とは別に女の子にチップを払わなくてはならないらしい。
チップの相場は200元(3000円)。つまりこのチップも女の子の収入となるのだ。

そんでもって大概は、女の子は携帯電話番号を教えて「電話かけてね」という。
店以外でデートなどして、食事をおごってもらったり服を買ってもらったりすることもあることを考えると、
彼女らの生活が、一般の人から「お金」的には尋常でないことがわかる。
しかし、体を売るわけではないが、それに近いことをしてお金を稼ぐことによって、
金銭的には裕福になるわけだが、それがはたして幸せなのだろうかということはわからない。

これは、何も水商売をしている中国人の女の子に限らず、
中国という国家そのもの、日本という国家そのものにいえることである。
企業への忠誠心を使ってアホのごとく働いて、金銭的には金持ちになったが、
精神的に豊かになったのか、本当に幸せな生活といえるのか?
そうではないからこそ、今の日本で、意味不明の異常犯罪が多発しているわけだ。
金は持っているが心が満たされない。
だからそこに異常な暴力や異常な偏執行為や、簡単にキレたり、子供に我慢ができず虐待してしまったり、
平気で親や子を殺してしまったりといったことがあるのだろう。
まさしく目の前にいるホステスは、われわれの社会の歪みの鏡ともいえる。

こうして約2時間ぐらいか、お会計は、店への料金が1人200〜300元、女の子へのチップが200元、
合計400元と考えても日本円にしたら6000円である。
ラーメンが30円、麻婆豆腐が100円という中国物価を考えれば、いかに高いかがわかるだろう。
しかしこれは日本企業相手のクラブだからである。
料金は現地の物価ではなく日本の物価に合わせているのだから。

<3>
さてさてここからは実体験ではなく、日本の駐在員に聞いた話。
このように単にお酒を飲んで女の子と話すだけのクラブもいっぱいあるわけだが、
「話す」だけでなく「おさわり」さらにはピンサロ的サービス、
最終的には本番までいってしまうサービスのあるクラブというか風俗が数多くあるらしい。
それも必ずしも日本人相手ではなく、中国人相手のところもあれば、香港相手のところもあるらしい。

中国の急激な高度成長に伴い、何も金を持っているのは進出している日本人や外国人だけでなく、
うまいことビジネスに成功し、莫大な富を得た中国人も当然たくさんいるわけで、
そのような人たちが、中国最大の経済都市といっていい上海に多く集まっているのは必然なわけで、
当然そういった人相手の水商売がビジネスとして成り立つわけである。
だから必ずしも日本人相手だけとは限らない、さまざまな水商売ビジネスが、
経済成長すればするほど発展しているというわけである。

このようにして経済成長の裏には、金でなんでもやる倫理観の欠如が必然的に訪れるわけで、
だからこそ社会の歪みがさまざまな形で起こっているわけで、
経済成長国の極致といえる日本で、最近、得たいの知れない異常犯罪が起きているのは、当然といえよう。
しかも皮肉なことに、数字上では経済大国になりながら、
成長しすぎて、安定期に入ってしまい、それが「不景気」と呼ばれることにより、
金でなんでもできる社会でありながら、脅迫観念的な「不景気感」が、
人々の精神病を進行させ、異常犯罪が相次いでいる所以である。

たとえば、まだ経済「成長」していない国では、ストーカーとか意味もなく放火したりとか、
子供を虐待して殺してしまうとか、そういったことはほとんどあり得ないわけだけど、
経済成長することによって、そういった犯罪は必然的に増えてくる。
急激な経済成長をしている中国では、この先、今の日本と同じような社会問題が起きることは、歴史の必然なのだ。

しかし今、高度成長期の中国では、日本の高度成長期とまったく同じ問題を抱えている。
公害である。
日本は闇雲な経済成長をするために、環境を無視して、公害が大きな問題となった。
今の中国がそれである。
上海にいって思ったが、SARSとか鳥インフルエンザ以前の根本的問題がある。
空気や河川の水が異常に汚れているのだ。

上海を1日歩く。ホテルに戻って鼻をかむと、はじめはティッシュは真っ黒になる。
ゴミと言うか砂塵というか、いかに空気が汚れているかがよくわかる。河川の水もかなりやばい。
年末の水郷村旅行で、水郷村から水郷村の移動に、舟を使ったのだが、
大きな河川沿いにはどでかい工場があり、そこからもくもくと口を覆いたくなるような、
きつい匂いの煙が吐き出され、かつ河川には工場からやばそうな排水が垂れ流されている。
はっきりいってSARS以前だ。
空気の汚れ、河川の汚れから、人体への影響が出て、大きな公害問題に発展するのは時間の問題だろう。

このようにして、急激な高度成長を続ける中国には、
これまで日本がたどってきたのと同じ問題が発生するわけである。
経済成長に伴う「欲望」資本主義の発展に伴い、
水商売の女の子を象徴とするように、金は増えるけど、大事なものを失ってしまい、
ブランド品をまとっていいきになっちゃいるけど、心が満たされない、
という、社会の歪みという「闇」の部分が、経済成長の「光」が大きければ大きいほど、大きくなっていく。
急激な経済成長の裏にひそむ闇はどんどん大きくなっている。
これが今の中国の現状なのだ。

<4>
そんな中国で、日本企業が進出する意味は2つある。
1つは、公害出したい放題、土地代も安く、人件費も日本の1/10で住む中国で、
製品をつくってコストをさげてビジネスをしたいと狙う企業の進出。
もう1つは、高度成長に伴う、中国人のGNP増加に伴い、
日本の高度成長期の3種の神器(テレビ、洗濯機、冷蔵庫)からはじまり、
車、パソコン、エアコンなどの家電製品の販売が、
中国人相手にこれからとどまることを知らぬ需要があることから、中国人向けの製品販売を狙う企業の進出。
この2つの理由から、日本企業が大挙して中国に押し寄せているわけである。

そしてそんな経済格差のある中国と日本のギャップを利用することにより、
日本が中国に進出するように、中国からも日本に進出する人々が増えている。
たとえば日式クラブで働く女の子は、中国のクラブで働けば5000元(75000円)かもしれないが、
日本に来て同じことをすれば20万円はもらえるわけである。
日本の水商売業者にとっても中国人を使えばコストが安くなるわけで、
見た目が日本人とそんなに変わりなく、言葉がある程度話せれば、
わざわざ高い日本人を雇う必要はないわけである。

また風俗産業になれば、やることだけやれば言葉はそんなに関係ないわけで、
かつようはきれいならいいわけだから、こぞってコストの安い中国人を使いたがる。
そこで働く中国人女性にしても、どうせ同じことをするなら、給料が高い方がいいわけで、
中国で体を売るなら日本で売った方がいいと、そういう論理になるわけだ。

もちろん、そうはいっても日本に住むことでさまざまなリスクや不慣れがおきるわけで、
だまされたり、体がおかしくなったり、いろいろなトラブルが起こってしまい、
それをカバーしようと、犯罪に手を出してしまう。
これが今、日本で起こっている中国人犯罪増加の一面でもある。

もちろん確信犯的に、経済格差を利用して犯罪目的で日本に来ている人も多いし、
水商売ではなく、日本に留学して日本語を学び、日系企業に勤めようという、
まっとうな志がスタートだったにもかかわらず、物価の高い日本での生活に挫折し、
犯罪や犯罪組織に手を出さざるを得ない中国人も多い。

こういった世界的な資本主義経済の不均等発展による経済格差が、
(中国と日本でもそうだし、中国国内における地方と都市でもそうだし)
さまざまな問題を巻き起こしているのであり、
またこういった背景による日本の中国進出と中国の日本進出が、
すべては「金」のために大規模なおかしな事件に取り上げられてしまったのが、
昨年、大きな問題となった集団売春騒動である。
そこに人々の深層心理にある歴史的な反日感情がリンクしまったことが、
西安での大学の反日事件へとつながっているのである。

中国の光と闇。
世界的な不均等経済発展によるさまざまな問題の発生。
そういった国内矛盾と国際問題がリンクし、蓄積された時、起こるのが、紛争、戦争である。

中国は多民族国家。
経済格差による地方と都市の対立に民族問題が絡めば国内紛争は簡単に起こりうる土壌がある。
また、中国に進出している日本企業との摩擦と、日本での中国人犯罪の増加で、
日中双方ともに、大きな不信感に陥って、戦争といったことに発展しないとも限らない。

日本も中国も、過剰加速度的な「欲望」資本主義社会の侵食が、大きな社会問題の元凶となっている。

1989年、冷戦体制の崩壊と社会主義諸国の崩壊により、
実はそのコインの表裏であった資本主義も、「勝利」したかのように見えて、実は敗北してしまったのだ。
新たな価値観による新たな経済体制、社会体制、国際体制が求められている。
唯一、そこで偉そうにもがいている「アメリカ」が崩壊した時、きっと新しい体制が生まれるのかもしれない。

・爆竹旧正月
さてさて、今回の取材で非常に大きな出来事は、中国の旧正月に出くわしたということです。
中国に2003/12/31−2004/1/1にもいたわけですが、何か特別な感じはほとんどありませんでした。
しかし、今回はまったく町の様相が違う。
日本でいう大晦日-正月的な雰囲気が、1/21-1/22に漂っていたのです。
1/21は大晦日、そして1/22が新年正月というわけです。

正月で驚いたのが爆竹、花火。
旧正月に中国では新年を祝って爆竹をするというのは本の知識でしっていたのと、
爆竹は危険だから最近は禁止されているという噂も聞いたことがあったのだが、はっきりいってすごかった。

大晦日、つまり1/21は昼間からあちこちで爆竹が散発的にならされていた。
爆竹といったって、日本で市販されているようなちゃちいようなものじゃない。
ものすごい爆音がするものだ。
それが1/21の大晦日、23時〜25時ぐらい。
僕は上海の繁華街・南京東路沿いのホテルにいたのだが、
常時鳴り響いていた爆竹の音が加速度的にすごくなり、
あちこちで爆音が一斉にこの2時間、鳴らされ続けていて、
正直、銃撃戦でも行われているのではないかという恐さを感じるぐらい、ものすごいうるささであった。

花火も容赦なくビル街のあちこちであがっている。
別に花火大会とかが行われているわけではないのだが、一般市民がすごい打ち上げ花火をあちこちであげていて、
それがビルの谷間のあちらこちらに見えるのだ。
はっきりいって尋常じゃない。
そりゃ、死者が出てもおかしくはないな。

ただ大晦日はいつもは夜遅くまで人通りが絶えないこの南京東路に人通り自体は非常に少なかった。
そこに住む食堂のスタッフとか、その辺に住んでいる人が、
大晦日でほとんど人がいない通りでばんばん爆竹を鳴らしているというわけだ。

というのも、日本と一緒で、大晦日から正月3、4日ぐらいは一斉に企業が休みになるので、みんな故郷に帰省する。
それで上海のような田舎から出てくる労働者が多い大都会は、大晦日の東京と同じように、
人通りは少なくなるというわけだ。
ちなみに爆竹は、今年も金がいっぱい入ってきますようにというような、商売繁盛というか金運呼び寄せのようなためにするらしい。

というわけで取材中もすっかりその旧正月的雰囲気にまぎれ込み、
なんだか今年は二度、年末年始を迎えたかのような気分だった。
翌日になるとみんな「新年好(シンネンハオ)」=あけましておめでとうとでもいうのか、
新年を祝う挨拶があちこちで飛び交う。

企業も休みなので、日本の企業や外資系の企業もこの正月休みを利用して国に帰る。
上海で働いている私の友人の日本人も、1/21、大晦日で仕事終わりで、日本に帰っていった。

そういったことも含めて、旧正月は中国国内外の「人民大移動」が起こる時であり、駅や空港の混雑振りは大変なものだ。
それでこの大移動の際に人の移動に伴いSARSが広まるのではとのことで、
駅でも空港でも、体温計が設置され、監視員が見張り、
一定以上の体温を検知した人を検査するという厳戒体制がひかれていたわけではあるが、昔からの中国の習慣である。
そうはいってもSARSのために異常な雰囲気になっているということは上海ではまったく感じられなかった。
(思えばマスク姿もほとんど見掛けないのだから)

・.夢のリニアモーターカー運行!

上海が世界一の都市になるであろう「証拠」ともいうべき1つは、
最高速度430kmのリニアモーターカーが乗客を乗せて運行しているという事実である。
(ちなみに新幹線は最高速度260km)

日本は今から40年も前からリニア研究をはじめ、
山梨県でリニア実験を繰り返し行っているにもかかわらず、
未だに実用化には至っていない。
思えば僕が子供の頃、21世紀の未来社会予想図には、
リニアモーターカーなるとんでもないスピードを出す列車が登場し、
新幹線など消えてなくなっているはずだったが、
日本に限らず他の先進国でもリニアを実用化している例を僕は知らない。

ところが、上海でそれをやってのけてしまったのだ。
毎日、走っている。しかも1時間に2本もの割合で。
たんなるきまぐれ試乗会ではなく、お金をとり乗客をのせているのだ。
多分、今年はじめか、昨年末あたりから。


なぜかこれだけの偉大なることをやってのけているのに、
不思議と日本でニュースにならないのは、
日本のリニア実用化の遅れを隠蔽するためなのかなんなのか。
もっと大きなニュースになってしかるべきだった。
実際、僕も本当に上海でもうリニアが走っているとは思いもしなかった。

ただ残念ながら非常に距離は短い。
浦東国際空港から地下鉄2号線龍陽路駅までの約30kmの距離。
乗車時間はわずか7分である。
しかしこの短い時間で、加速し430kmまで出し、
減速し停車するのだからたいしたものである。

国際空港に乗り入れしているというのは非常にいいことなのだが、
市の中心部までいかず、市の外れの地下鉄駅までしか行かないことから、
残念ながら実用的な使われ方をされていないようだった。
きちがい上海、きちがい中国なのだから、そこまでやったなら、
市の中心部まで建設して運行してくれたなら、リニア利用者は急増するだろう。

料金は75元(1200円)
バスでいけば10元ぐらいだが、タクシーなら100元ぐらいはかかるだろうから、
タクシーに乗るよりは安いといえる。

市の外れまでしかいっていないのだが、
終着駅の地下鉄龍陽路駅から市の中心部・人民広場までは、7駅、約20分、3元(45円)と考えれば、
重い荷物がなければ、空港からリニアを使って市内にいっても一興。
ただし運行時間は8〜18時ぐらいまでだったはず。

列車内は「リニア」といえども普通の新幹線のような感じで、なんら特別感はない。
乗車した430kmの体感だが、なんせ7分しか乗っていないので、その早さがピンとこないし、
リニアの走っている区間はほとんどまだ空き地だらけで車通りも少なく建物もないので、
流れる車窓からスピード感をはかることはできなかった。

ただ、一度逆方向のリニアとすれ違ったのだが、その衝撃は結構なものだった。
リニアはレールで走らないから安定性があるものとばかり思っていたのだが、
結構、風の抵抗を受けて、それほど乗り心地がいいとはいえなかった。

それになんたって中国だしな・・・
見切り発車で実用化して事故でも起こすんじゃないかってそういう漠然とした不安感がないわけでもない。

まあそんなわけで、10年後、間違いなく世界一の都市になっているであろう上海は、着々とその布石をうっているのである。
もちろん、その急速な「近代化」は、さまざまな闇や社会問題を撒き散らしながらのものではあるが。

・大規模開発の裏に強制立ち退きに抗議急増
上海を訪れ、意外に思ったことは、
まだまだ都市中心部にも空き地や古い街並みが残っていることだった。
もうすっかり高層ビルジャングルになってしまっているのかと思いきや、
開発はまだまだこれからといった感じだった。
ただいずれ時間の問題で、ぼろい古い家屋が取り壊され、
ビルをどんどん建てることは間違いない。

しかし急激な高度成長をめざす、
この中国開発ラッシュの裏にはとんでもない事実があった。
政府の強権的な強制立ち退きに抗議が殺到しているのだという。
自殺、暴力、デモ、抗議、直訴などなど、
土地をめぐる争いはとどまることを知らない。


日本にもバブル期に強圧的な地上げが問題になったが、
中国がヤクザまがいの地上げを国自身がやっているということである。
しかも相当安い値段で買い叩いているらしく、立ち退きした住民は大打撃を受けているのだ。

中国は経済的には資本主義的手法を徐々に取り入れ出しているが、
それを取りしきっているのは共産党による一党独裁体制。
経済面での「成長」の裏に、政治面での強圧さがある。
経済大国になっても政治や人権などの面では極めて稚拙。
それが今の中国の実態なのだ。

日本のように経済面だけに飛びついていいきに中国進出を図り、
中国の政治や人権問題に口出ししない、できない姿勢も情けないが、
中国のそういった強圧的な政治手法をしっかり見ぬいているところもある。
中国の国家主席が2004.1.27、フランスの国民議会で演説したらしいのだが、
なんとそこで、中国政府の人権問題に対する対応に抗議し、
党派を越えて定数の1/3にあたる200人が欠席抗議したという。

さすがだなと思う。
高度成長する中国の裏に潜む政治的な強圧さをしっかり見据えている。
国家主席が来て200人が欠席抗議なんていう、度胸がある国はフランスぐらいか。
アメリカのように一方的な押さえ込み戦法か、
日本のように問題を見て見ぬふりをして、
経済面のおいしさばかりに目がいく態度などとは大違いである。

確かに中国は今、経済面での資本主義化・近代化・自由化の影響で、大きな変革を遂げようとしている。
しかし未だに政治体制、人権対応には大きな問題がある。
そういったところも見据えた上での付き合い方をしていかないと、「高度成長だ万歳!」といっているだけで、
その影に強圧的に立ち退きをさせられた中国国民の民意を汲み取ることはできないであろう。

民意を汲み取りかねれば、その国との正しい付き合い方はできないだろう。

・自転車大国の「高度成長」
2004年から上海市内の主要幹線道路での自転車通行を禁止し、
違反者の罰金も現行の10倍以上(50元=750円)に、
引き上げられるのではないかというニュースに、
「バカな、そんなことができるわけがない」と思った。
そのニュースを見た時は、僕が7年ぶりの上海を訪れる前だったが、
直感的にそんなことはあり得ないと思ったが、
やはり2003年の年末に上海を訪れると、
自転車禁止がいかに無謀横暴なことかがわかった。

中国人民にとって自転車は欠かすことのできない生活の足である。
特に大都市では自転車は欠かせない。
中国には歩道、自動車道とは別に、
自転車専用道路もあるぐらいなのだから。

なぜ自転車を禁止しようかというと、高度成長による自動車の急増のためである。
確かに上海での道路状況をみると、道路は自転車で占拠され、
自動車がなかなか進まず渋滞の原因にはなるだろうし、ましてや事故のもとになる。
しかし反発している市民同様、僕も思う。
自動車を規制すべきであって、自転車を禁止するのは本末転倒だと。

これもまた中国が高度成長することに伴う社会構造の変化による問題である。
これからどんどん経済成長し国民一人当たりのGNPが増加すれば、自動車保有台数も増えてくるだろう。
今、上海では地下鉄が3線しかないが、将来的には10線になるらしい。
そういうこともあって、中国ならではの自転車風景が、
何年かしたら減ってくる可能性はあるが、今はさすがに無理だろう。
まだまだ自動車なんかより、自転車が主力なのだから。

しかし交通事故のことを思うと、自転車ー自動車なんていうせせこましい問題ではなく、
もっと根源的な問題があると思う。
中国では車も人も自転車も信号無視は当たり前。
横断歩道が少なく、6車線、8車線道路も、横断歩道なしの道路をあちこち歩行者が渡るという、
まさに「神業」というか、交通事故を起こしてくださいという根本的なマナーの問題としてある。
そういう交通マナーから変えていかないと、単に自転車を禁止にするだけではまったく意味がないと思う。

さてさて、2004年1月中旬に再び上海を訪れたが、
上海市内で自転車が禁止されている様子は見られなかった。
それは無理ですよ。