シフクノオト ミスチルトップ かさこワールド

シフクノオト(2004.4.7発売)
2002.5.10発売の「It's a Wonderful World」からほぼ2年ぶりのニューアルバム。
間が空いてしまったのは、桜井君の小脳梗塞による突然入院などがあったからだが、
とにかくファンにとっては待ち望んだ一作だった。

ただアルバム発売ニュースを聞いてそのタイトルを見た時、軽い失望を覚えた。
12曲中、すでに発表されている曲が6曲もあるのだ。
「掌」「くるみ」「空風の帰り道」「Any」「タガタメ」「HERO」。
ま、しょうがないといえばしょうがないのだが、
ずっとアルバムが出なかった期間は上記6曲を毎日何度も聞き続けた僕にとっては、
新しい曲が6曲しかないというのはちょっと物足りない感はある。
しかも4.11からはじまるドラマの曲は入らないというのも残念ではある。

なのでぱっとはじめに新しい曲だけ聞くと、ちょっとどうかなって気もしないでもないが、
シングルも含めてトータルで聞き込んでいくと、なかなかやっぱいいよなと思う。
第一印象からすると、発表曲をのぞくと2曲目の「PADDLE」(ドコモのCM)と10曲目「天頂バス」が圧倒的によく、
それは大のミスチルファンの私の親戚、シンノスケ君の感想も同様だったように、一般的に一致した感想のようだ。
ま、それはともかく、一曲ずつ簡単ですが解説していきましょう。


1.言わせてみてぇもんだ
このアルバムのミスチルのスタンスを端的に表した曲。
「愛想を尽かしてくれても 一向に構わない」という歌詞ではじまるこの曲を思うに、
このアルバムは、自分たちがやりたいことをやって、それでどうだ?って感じなんだと思う。
前々作の「Q」や前作の「It's a Wonderful World」のように、ポップ感をあまりに意識したために、
聞きざわりがよく、リスナーに迎合したと捉えられなくもないが、
今回のアルバムにはそういうところがなく、吹っ切れている。
それをこの一曲目で宣言しているように受け止められる。
、 それとこの一曲目を聞いてもわかる通り、へビーさが戻ってきたのがちょっとうれしい。

そしてまた歌詞も実に桜井君のそのままを描いたようなストレートさ。
最近のミスチルの歌詞の傾向はポップ感を重視するために、
歌詞やメッセージ性より聞きざわり的なことが重視されていたような気がするけど、
この歌を聞く限り、心境をストレートに歌う詩が戻ってきたことも実にうれしい。

2.PADDLE
「蘇生」を思い起こさせる、突き抜け感のいい、実に軽快な曲で、
掌なんかよりこっちをシングルにした方がよかったんじゃないかな。
とにかく抜群の曲!
アルバムというより「PADDLE」と「天頂バス」の両面シングルのようにこの2曲ばかり聞いている。

歌詞も「蘇生」的な感じで、
「荒れ狂う海原の上」だけど前に向って明日に向って進もうといったような、
大変な世の中だけど前に向って進んでいこうというポジティブな歌詞になっている。

桜井君が最近インタビューなどでいつもいっている、
自分たちの曲を聞いてすぐに何かが変わるということではなく、
それを聞いたことで、次の偶然を変えられるかもしれないというそういう思いが、
「どんな化学変化を起こすか もう一度ゆすってみよう」ってことだと思う。

でもそれで何も変わらないかもしれないという潔さはあって、
でも自分たちは永遠のパドリングをしていこうというこの心境のバランス感覚は、
桜井君自身の私生活の安定ぶりのおかげなんだろうなって思う。

「皮肉で溢れた世界 不安と怒りの過渡期 見失わぬように進もう
時々 上手に 息抜きしながら 身をかわしながら 行こうぜ」
まさにこの心境だと思うんだよね。
社会へのフレストレーションは捨てたわけじゃないけど、
バランスをとりながら、たまに息抜きしながら生きていこうというメッセージは。

3.掌
アルバムですごく光った曲
シングルで抜き出すとちょっと唐突感があるけど、
言わせてみてぇもんだーPADDLEときて、この掌がくるとほんとしっくりくるし、
この曲の良さが非常に光る。
その意味では確かにこの曲はこのアルバムの中核をなしていることは間違いないとは思う。
4.くるみ
1.2.3曲目とぽんぽんと決意表明的な曲が続いてほっと一息つくのが、この4曲目「くるみ」と5曲目「花言葉」。
ほんとくるみはいいですよ。
また「くるみ」−「花言葉」と続く感じもとってもいい。
シングルとしての存在感が十二分にある。
ほんといい曲です。

5.花言葉
こういうシンプルな曲が入っているとほっと落ちつく。
「くるみ」ほど手の込んだつくりをしていないので、
ある意味では物足りなさを感じるかもしれないが、
アルバムの中でのバランスという意味ではこういう曲が1曲あることで、全体の幅が広がる感じがある。

6.Pink〜奇妙な夢
アルバムならではの曲。
シングルの羅列じゃ疲れちゃうからこういう曲もあった方がという、アルバムの広がりをもたらす曲。
何度かアルバムを聞いているうちに、あ、こんな曲もあったんだ、
なかなかいいじゃないかと思うようなタイプの曲。

7.血の管
これもアルバムならではの曲。
ピアノと桜井君の声だけでわずか2分ほど。
ライブとかで聞くとその良さがわかるんだろうな。

8.空風の帰り道
6.7.とアルバム的曲が続いて、一挙にスローテンポになったところで、
もう一回しきりなおしで新しいものがはじまりますよと肩ならしをしてくれるような位置にあり、
シングル「HERO」のB面に入っていた時より存在感がある。
なかなかいいですよ、この曲がうまくアルバムになじんでいる。

9.Any
そしてAny。
今回ほど、よく曲並びの流れがいいアルバムはないのではないかというぐらい、すごいすっと入ってくる。
ライブで「次はこの曲だろうな」と予想が的中するような、流れの良さがあり、
ここにAnyがきていることがすごく自然な感じがする。
2002年に出された一番このアルバムでは発表は古い曲だけど、やっぱりいいですよ、この曲は。

10.天頂バス
ほんとこの曲はいい。飛びぬけていい。
今までにない新鮮感があるし、できは抜群。
シャウトもしてるし、不思議な感じもあるし、はじまりの違和感も実にいいし。
シングルには決してなり得ないだろうけど、これこそ桜井君天才だなと思える曲。
私一番のおすすめのお気に入りです。
ぜひ聞いてほしい。

11.タガタメ
アルバムに入ってよかった。
しかしこのアルバムの中に入ると発表当時のインパクトは意外にない。
その意味では桜井君が早く発表しておきたかったという意図は正解だったと思う。
(ま、発表の仕方には問題があったわけだけど)

アルバムに入るとそれほどのインパクト感がないのは、
アルバムという1つの文脈においては、その流れを汲んでいる曲だからだと思う。
ただこうしてアルバム全体を通してこの「タガタメ」を聞いた時に思うのは、
今回のアルバムは、みんながみんな桜井君の言葉を間に受けて、
「日常生活で何気なく聞ける私服の音」というようなアルバムなんかではまったくなく、
なんかある意味では「深海」までの圧倒的ダークさまではいかないけど、
「Q」や前作のポップ感に向っていたミスチルとは違って、
「DISCOVERY」や「BOLLERO」を彷彿とさせるような、ヘビーでメッセージ性を帯びた感じが、
徐々に復活しつつあるんじゃないかという意味で、僕は非常にうれしい。
そういう文脈での「タガタメ」は違和感なくアルバムに混在している。

12.HERO
シングルらしい曲で締めにふさわしい曲。
AnyとHEROというこの2つの曲が、桜井君の突然の緊急入院時を思い起こさせる。

総評
月並みなアルバム評価である「私服のような日常生活で何気なく聞けるアルバム」とはまったく違い、
僕がむしろ「深海」やメッセージ性を感じるのは、
SWITHのインタビューで小林武史もインタビューアーも悟っているようだ。
今までよりかなりヘビーな音が増えているし。

このアルバム発売を機に、あちこちの音楽雑誌にミスチルインタビューが載っていてそのほとんどを読んだけど、
なんで新しいアルバムが出る度に「史上最高傑作」ってわめきたてるんだろう。
もちろん僕はミスチルが好きだから、このアルバムも当然いいわけだけど、
ミスチルの中で最高のアルバムとは思えない。
完成度からいえば「DISCOVERY」や「Q」「It's a Wonderful World」の方が高いような気もするし。
変に持ち上げて期待させるありきたりのインタビュー記事はちょっとうんざりだし、
みんながみんな「日常に何気なくすっと入ってくる曲を集めたアルバム」と評しているが、
僕にはまったくそんな風には聞こえない。
ヘビー感とメッセージ性が戻ってきたことは非常にうれしいし、そのような曲が集まったアルバムだと思う。

僕なんかは毎日のようにこのアルバムに入っているシングル曲を聞き続けてしまっているから、
新鮮な感覚はないのかもしれないけど、
シングルを買ってない人にとっては、シングルがこれだけ入っていてタガタメも入っていて、
「PADDLE」と「天頂バス」も入っているとなるとかなりおトク感のあるアルバムなのかもしれない。

またぜひツアーでアルバム曲を聞くとその親しみが変わってくるので、
なんとかツアーチケットを手に入れたいなと願っている。