Any(2002/7/10発売) ミスチルトップ かさこワールド

アルバム発売からわずか2ヶ月でのニューシングル発売という、
いついないハイペースに驚かされる。
本当に桜井君は今、のってるのだなと思う。
トップスターへの道を必死で駆け上がるためのハイペースではなく、
自分が思ったことを曲にして伝えたいという気持ちが生んだ曲ではないだろうか。

ドコモのCMソングとなり、これもミスチルには珍しく発売前に大量に世間に流れた。
サビだけを先に聞いている状態から、
改めて全体を聞き直すと、この曲の広がりが身に染みる。

Tomrow never knowsを思い起こさせるようなはじまり、ささやきかけるような桜井君の歌声、
そしてドラマティックに移行する力強いサビ。
日常の些細なことなんだけど、それが人生の大きなテーマとなっていくような、ドラスティックな曲。
マイラバのアレンジに似てるかな。それが曲にあって非常に効果的。

タイトルに込められたメッセージは、「答えは一つじゃない」。
いくつもあるからがんばろうという、
悲壮な決意を背負ったかつてのミスチルではなく、現状肯定歌である。

でもそこに登場する主人公は決してバラ色の人生を歩いているわけではなく、
むしろ非常にマイナス志向に陥りかけている状況なのだ。
でもそれは決して間違いじゃない。答えは一つじゃない。
いくらでも好きなようにこれからなっていくじゃないか。
置かれた状況がマイナスだからこそ、それをプラスに考えようとする姿勢が時代の共感を呼ぶ。

現実を悲観しないでプラスに変えていこうよ。
それがQ以来の桜井君のメッセージなのだ。
今回のAnyにもそれが受け継がれている。

きっと多くのリスナーは、今、自分のいる立場なり仕事なり人生なりに、
100%満足している人などいないはず。
いやむしろ不満だらけで生きている人が多いはず。
でもそれで腐ってしまってはどうしようもないし、
マイナス思考で考えてしまったらきりがないから、
まずは今いる自分を肯定するところからはじめようというこの歌が、
現代社会の時代とマッチして、聞くものの多くに勇気を与えてくれることだろう。

僕が個人的にこの曲で好きな歌詞はこの部分。
「もっといいことはないか?」って言いながら
卓上の空論を振り回してばっか

まさしく僕にもそんな時代があった。高校の時かな。
毎日毎日がつまらなくって、「なんかいいことないかな」っていうのが僕の口癖だった。
いいことっていうのは自分から行動しなければないわけで、
ただ待っているだけじゃ何も起こらないし、
自分が好きなことを見つけて、それに打ち込んだ時に何かが起こるわけで、
そんなこともせず、ただ現実逃避していた毎日を送っていた。
そんな自分をかばうために、自分の正当性を認めるための、机上の理論武装だけはしっかりしていたから、
自分が自分自身に騙されてしまって、自分がほんと見えなくなっていた。

それに対する答えとして、桜井君はこう言う。
小手先でやりくりしたって何一つ変えられはしない

そうなんだよな。その通りなんだ。
そんなことに気づいたのはつい最近で、それが高校や大学時代にはわからなかった。
小手先で解決しようとしても「いいこと」なって絶対に起こらない。
まず自分がマイナス思考から脱して、プラス思考で行動しなくっちゃ。
その上で今いる場所が望んだものとは違っても、
はじめて「間違いじゃない」って言えるし、未来に希望が見える。

現実逃避と回り道は違う。
僕は以前つぶやきかさこに、「人生に回り道はつきものだ」と書いた。
でもそれはまさしくこのAnyで歌われていることで、
たとえ回り道になってしまったとしても、それはまだ発展途上の自分なだけで、
いつか辿りつく望んだ場所への過程に過ぎないのだから、
悲観することなく今の自分を肯定しなきゃってことなんだ。

奇しくも桜井君がコンサートを前に突然の入院となってしまい、
テレビから流れるこの曲に自分が励まされるという奇妙な経験をしているという。
今いる場所が望んだものとは違っても、間違いじゃないというメッセージは、
入院という事態になった桜井君自らに勇気を与えることとなったのだ。

そしてまた僕もこの曲を入院中に手に入れたこともあって、何度も何度も聞き、
こんなにも勇気づけられた曲はないかもしれない。
全体的にシンプルな印象を与えるが、聞くと力強いメッセージが伝わってくる曲だ。