他人の曲を歌うことでパワーアップした桜井さん〜apbankfes06DVD発売を契機に考える〜

2006.12.26 ミスチルトップ かさこワールド

最近のミスチルを解く1つの重要なキーワードは「ストレンジカメレオン」。
これは、pillowsというほぼミスチルと同世代のバンドの曲である。
ミスチルは近年2つのトリビュートアルバムに参加している。
尾崎豊とpillowsである。

ミスチルが歌う尾崎豊の「僕が僕であるために」も最高なのだが、
桜井さんを筆頭にミスチルはえらくこのpillowsにインスパイアされたようである。
最近のミスチルインタビュー記事を見ても、
ほぼ間違いなくこのpillowsと「ストレンジカメレオン」の話が出てくる。

12/20に発売されたapbankfes06のライブDVDに、
BankBandではなくミスチルとして「ストレンジカメレオン」を演奏している映像があるんだけど、
もうほんとすごい!
ミスチルそのものが作った曲みたいに、馴染んでいるのだ。
そして彼らが語るように、本当に楽しそうに演奏している。

ポップでソフトでラブソングのミスチルも好きなんだけど、
ミスチルの大きな魅力ってのは、それだけじゃないところ。
ずっと昔にそれほどミスチル好きではない人が、
「ミスチルのライブって盛り上がるの?」って聞かれたことがある。
それはどの曲も座ってしみじみ聞かせる、
ラブソングばかりのイメージが大きいからだと思うんだけど、
それとはある意味ではまったく真逆といえる(ほんとは真逆じゃないんだけど)、
社会の不満をぶちまけるような、激しくハードな「ロック」の曲も多い。

当たり障りのない、聞こえのいいだけのラブソングだけしか奏でないバンドとは一線を画していて、
それがミスチルの大きな魅力なんだけど、
最近はちょっとポップでソフトな感じの曲が多かったかなと思うと、
ストレンジカメレオンが「憑依」したことで、
内に秘める激しい感情を揺さぶるリズムと音楽をバンドとして取り戻し、
きっとその延長線上に、2007年1月発売の「フェイク」のような激しい曲が生まれたんじゃないかなと、
私は勝手に思っている。

apbankfes06のライブDVDを見ていて思うこと、それは、
同世代のバンドの歌をミスチルとして歌ったり、
桜井さんがBankBandとして、日本のアーティストの名曲を歌ったりすることで、
デビュー15周年を前に、ミスチル、そして彼の創作活動の源みたいなものが、
ひとまわりもふたまわりも大きくなっていくんじゃないかということだ。

apbankfesにおける桜井さんの仕事量(役割)はほんと半端じゃない。
まるで「地獄」の修行のようである。
3日間、BankBandの一メンバーとして彼はステージに立ち続け、
他のアーティストの曲を50曲以上、演奏&コーラスを担当しているのだ。
(しかもその後、ミスチルとして9曲演奏している)

音楽漬けというか音楽修行というか音楽合宿というか。
自分の曲だけじゃなくこれだけ他の人の曲を、
短期間でリハーサルして一発勝負のライブに臨むってことは、
多分相当なすごいしハードなことだと思う。

膨大なインプット作業。
単に他人の曲を聴いて「いいな」と思ってインスパイアされるわけじゃなくって、
それを実際に演奏し、ライブをし、そして歌も歌う。
いわば自分の体内に他人の曲を「刷り込む」作業をする。

きっとこのイベントを契機に、彼は音楽的な意味での相当なパワーアップを果たしたのではないか。
そうした他人の曲をいわば自分のものにしていく活動(BankBand)を続けていた中で、
ストレンジカメレオンのように、ほんとそのままミスチルの曲になってしまうほど、
自分たちのものにしてしまう曲も現れてくるほどなのだから。

音楽に限らず、文章、写真、絵、芸術などなど、
多くの創作活動ってのは、ひたすら自分の中にあるものを、
アウトプットしていく作業なわけです。
そのせいか、アーティストでもバンドでもそうだけど、
どっかの時点でマンネリになったり、アイデアがなくなったりしてしまう。
そして過去の作品にすがりつくしかなくなってしまい、
いつしか忘れ去られてしまう。

そのような意味で、これだけのインプット作業をした桜井さんというのはすごい。
しかも30代後半でもうすでにビックなアーティストになった後に、
これだけの作業をするっていうのがなおすごい。

若いうちはとにかくいろんなものを取り入れ、量をこなして、
いわば「芸の肥やし」を作っていくわけだけど、
この段階でもう一皮ももう二皮も剥けるがごとき、膨大な修行をこなす。

BankBandをはじめた頃、「こんなに歌うことが楽しいのか」といったコメントを、
桜井氏がしていたのを記憶している。
創作活動、クリエイティブな活動といえど、
それが仕事になり、ルーティーン化されていくと、
初心の気持ちがどこかへ行ってしまい、
行き詰ったりおかしな方向にいったり、ストレスためたりしてしまうけど、
それを他の人のいい曲を歌い演奏することで、突き抜けた桜井さん。
こりゃ、見習わないといかんなと思った。

別に彼が行き詰まりを感じてこのようなことをやったわけではないと思う。
ただ音楽が好きだから、好きだから別に自分の曲じゃなくても、好きな曲は歌う。
そういう純粋な気持ちが昇華し、それを徹底的にやった結果、
いつしか自分の歌になってしまうという、
それがきっと彼がいう「エコのためとか誰かのためとかいいながら、
いつのまにか全部自分にかえってきている」みたいな結果になってるんだろう。

インプットがなければ、いいアウトプットはできない。
私も自身の文章や写真の創作活動に厚みを持たすために、
現状に満足せず、基礎体力を鍛えるべく、
飽くなきフィールド活動&インプット修行を来年も続けていきたいと思った。

2007年の15周年のミスチル、きっと新しいアルバムが出ると思うけど、ものすごく楽しみだ。