作家になるには かさこワールド

・作家になりたい馬鹿者に告ぐ
ブログに毎日まめに日記を書く多くの人々を含め、
日本人にはなぜか「作家になりたい」と思う人が多いようだ。
実は私もその一人で、以前、ホームページのトップには、
その願いも込めて「作家・かさこのホームページ」と書いてあったが、
なんだか急にバカらしくなって、「作家」をとった。
私がやりたいことは「作家」ではないのだと思ったからだ。

作家志望の理由ははっきりいって極めて明快。
「楽して印税生活が送れ、ぼろ儲けできる」
まったく、とんだ誤解である。
本を出している人を仮に「作家」と呼ぶと定義したとしても、
印税だけで食ってぼろ儲けしているのはごくわずかな超有名人気作家ぐらいだろう。

そもそも「楽して金儲けたい」という不純な動機の輩に、
人を感動させるような文章を書くことはまず無理だろう。
そもそも金を儲けたいだけなら、作家なんていう面倒なものなんかになるより、
株でもやればいいわけだ。

今の日本で仕事で血迷ってしまっている人が多いのは、
「何をやりたいか」ではなく「何になりたいか」が先にきてしまうからだろう。
職業への憧れも必要だが、じゃああんたそれになって何したいの?っていう、
その答えがないからおかしなことになる。
「作家になりたい」のが「印税で金儲けしたい」というのはおかしいわけだ。
「こういうことを世に訴えたい」から「作家になりたい」というものがないと、
作品なんか書けないわけですよ。

ただこういう作家志望願望が日本では根強いために、自費出版会社がぼろ儲けしている現状がある。
自費出版会社に原稿を打診すると、必ずこういって返してくる。
「共同」出版。「協力」出版。
これに素人は勘違いしてしまうのだが、
ようは「共同」「協力」という名の自費出版に他ならない。
素人の文章になんで自費出版会社がリスクを負うのか。負うわけがないのである。

まあ100万円あったとして、それを車買ったり服買ったりする自己満足の代わりに、
本という自己満足を買うという意味でのショッピングとしてなら、
「共同出版」という名の自費出版をおすすめするが、
それで出版すれば印税がわんさか入ってくるかもと、
電卓を叩くような輩は真っ先に取りやめるべきだろう。
燦燦たる結果に終わる。ま、それは高いがいい授業料ということにはなるのだが。
私の自費出版のように(笑)。

これだけインターネットが発達し、ブログでもホームページでも、
個人が書いた文章を多くの人に見せる媒体があるにもかかわらず、
本という物への信仰はアツイ。
ま、そりゃ、物体となる喜びはあるけど、
多くの読者に読んでもらいたいなら、本を出すよりネットの方がよほどいいだろう。

それと書店にいけばわかると思うが、
一部の小説家とかをのぞいて基本的に作家専業という人は極めて少ない。
たとえば弁護士という仕事と知識を活かして本を出すとか、
スポーツ選手だとか芸能人だとか経営者だとかワイン通だとか大学の先生だとか、
作家である前に表現できるネタを持っている何がしかの職業だからこそ、
本が出せるのであって、何にもしないでいきなり作家になって、
印税でなんて、まあよほどの戯言と考えた方がいいだろう。

そんなわけで私はホームページから「作家」という文字を外したわけだが、
表現したいものがなくなったわけでもなく、
それを本にするという選択肢ももちろん追求していく。
ただ本を出したからといってだから「作家」なのかは私にはわからんが。
作家志望のみなさん、早く目を覚ましましょうね。

・印税で本当に儲かるか
作家になりたい人の多くの理由は、印税で儲かるから。
しかし本当に印税で儲かるのか、シミュレーションしてみよう。
たとえば定価1500円の書籍で、印税はだいたい10%。
とすると、著者に入ってくる印税は1冊150円ということになる。
1500円×10%=150円

さあて、ここで作家になりたい大馬鹿者は、
100万部だとかいう、1年に数冊しか出ないような、
爆発的ベストセラーを夢想する。
確かに100万部売れれば、
100万部×150円=1億5000万円で、大金持ちと思うかもしれないが、
そんなのは極めて稀なケースである。

では実際に本を出して出る部数というのはどのぐらいなのか。
そのほとんどが1万部以下である。
1000部=15万円
5000部=75万円
1万部=150万円

それでも1万部いけばかなりいい方といえるだろう。
しかし1万部の本を出したところで150万円。
1年に1冊本を毎年出し続けたとしたところで、
年収たった150万円なら、はっきりいってフリーター以下の年収である。
作家になり、本を出し、印税ががっぽがっぽ入ってきて、
楽して暮らせるなんて、こういう初歩的な計算をすれば、
すぐにそれが幻想であるとわかるだろう。

ただ作家になりたい馬鹿者は自分の本がもっと売れると思っている。
じゃあそこそこ売れている本で100万部とはいわないまでも、
仮に10万部売れたとしよう。
すると、10万部=1500万円の印税である。

1500万円、すごいじゃないと思うかもしれない。
しかし一生は当たり前だけどこれじゃ、食っていけない。
10万部ものベストセラーを2年に1度一生出し続けても、
年収はたかが750万円である。
しかし2年に1度、10万部もの書籍を出し続けることなんて、
よほどの売れっ子作家でなければ不可能だ。
これで、作家が印税で儲かるなんて不純な動機で、
作家になりたい馬鹿者はいなくなるだろう。

ちなみに1冊大当たりして100万部出たところで、
1億5000万円もの印税だが、これで一生遊んで暮らせるかというと、
かなり微妙である。
たとえば30歳で100万部の本を出して残り40年間の人生を、
この1億5000万円でわると1年あたり年収375万円にしかならない。
ここには税金を差し引いてないから、実際の手取りはもっとないだろう。

もちろん10万部程度のベストセラーを1度でも出せば、
講演とか連載とかいろいろな仕事が入ってくる可能性があるけど、
上記でみたように、ほとんどの書籍は1万部以下。
作家だけで食っていくのはいかに大変なことか、
作家になりたい馬鹿者はこれでわかったかと思う。

金儲けしたいから作家になりたいという人は、
よほど大手企業のサラリーマンの方が楽して儲かるということを、
頭に叩き込んでおいた方がいいだろうな。

・作家の年収は300万円の下層民!
作家というと楽して儲かる商売だと思われがちだが、
実際に計算すると、フリーター程度の年収しか、ないことが容易にわかる。
最近、驚いたのは、私が敬愛する作家・藤原新也ですら、
1冊1万5000部から2万部程度しか売れていないと、
本人がブログで書いていたことだ。

藤原新也といえば大御所である。
ファンも多いことだろう。
そんな大作家ですら、なんと2万部程度とは・・・。

確かに藤原新也は旬が過ぎてしまった作家ではある。
最近の著作がたいしておもしろくないことも、
売れ行きが思わしくない原因ではあろう。
しかしそれでも藤原新也である。
それがたった2万部なんて、衝撃的な事実だった。

実際に2万部だとどのぐらいの印税収入があるのか
。 1年に1冊、定価1500円の書籍を出し、2万部売れるとすると、
1500円×2万部×印税10%=300万円

年収たったの300万円だ。
月給にすれば25万円。
20歳代の新人サラリーマン並みの給与だ。

しかも300万円の収入のなかから、
自分で税金、保険、年金を支払い、
さらには取材交通費や資料のための書籍代などを出したら、
それこそ手取りは150万円ぐらいじゃないか。
まさに格差社会の底辺にいる人ということになる。

もちろん作家ならば、新刊の印税だけでなく、
連載記事の原稿料や講演料、メディア出演料など、
書籍より割りのいい収入源はある。
それでもたかが知れている。
よほどの売れっ子で、
頻繁に講演やメディアに出ているならともかく、
書籍だけでは到底、生活できないことがわかる。

作家で楽して儲けたいというのは大間違いだ、
と指摘したわけだけど、
藤原新也の実情からもそれを裏打ちする結果となった。

ただ、だから本を出す意味がないとは言えない。
作家専業で食うことは難しくとも、
たとえば、弁護士や税理士、経営者やタレント、
何かの専門家が本を出せば、
宣伝効果もあるし、著書があるということで箔もつくし、
本業への経済波及効果は大きい。
ただ作家専業って相当厳しいんだなと思った次第。

まあ1万部でなく10万部売れれば、
1500万円の収入ですごいだろうってことに、
なるのかもしれないけど、
10万部も売れる本を毎年出す奇跡を考えたら、
よっぽどサラリーマンやってた方が、
楽して儲かるということがわかる。

だからもし楽して金儲けしたいから、
作家になりたいという人がいたら、辞めておいた方がいい。

・自費出版本が全国書店に並ばないと提訴
実におもしろい事件が起きた。
大手自費出版会社・新風舎の著書が、
『全国に広く流通』とうたっているのに、
自分の本がほとんど店頭に並んでいないとして、
760万円の損害賠償を起こしたのである。

私は1997年に100万円払って新風舎から自費出版しているので、
(ちなみに他の自費出版会社の見積もりは200万円だった)
未だに新風舎からDMやら会報誌のようなものが届いているのだが、
今回、訴えられた件について新風舎からの言い分手紙が送られてきた。
同様の訴訟を自費出版している著者から、
起こされてはたまらないという配慮か、
マスコミの報道の仕方が自費出版会社=悪という感じなので、
この問題に対する正しい書籍流通の仕組みと、反論をしたかったからだろう。

自費出版会社の問題は後で論じるが、
私がこのニュースを目にした時に率直に思った感想を述べたい。
「つまらない本が全国書店に並ぶかアホ!」

作家になりたい馬鹿者が多い。
自分の文章がいかにつまらないかもわからず、
作家という職業が楽にぼろ儲けできると勘違いしている輩が多い。
本を出せば全国どの書店にも並び、
大ベストセラーとまでいわないまでも、
そこそこ売れて一躍有名作家になっちゃうんじゃないかなんて、
そんなことを思って自費出版する輩が実に多い。
だから自費出版会社がぼろ儲けしているわけだが。

まあ、かくいう私も、出版業界に無知だった10年前、
新風舎から自費出版し、売れたらどうしようとか、
自分の本が書店に並んでいないかあちこちチェックし、
東京の八重洲ブックセンターと新宿の紀伊国屋書店以外、
並んでいなかったことに愕然としたのを覚えている。
私もまた「作家になりたい馬鹿者」の一人だったわけだ。

新風舎をまったく擁護する気はないし、
そもそもホンニナル出版のような、
初期費用ゼロで出版できるシステムがあるのだから、
従来のような自費出版会社の存在意義はほとんどないと思うのだが、
それでもこうした作家幻想を夢見て大枚はたいてしまう人が多い。

新風舎の言い分手紙の言う通り、
全国流通のための営業を怠っているわけではない。
ただ、当たり前の話だけど、
営業したところで、その本を書店に並べるかどうかを決めるのは、
出版社ではなく書店の判断である。
別にそれは自費出版に限らず、有名作家の本だって同じこと。
どんなに有名作家の本だろうが、
その書店で「うちはいらない」といわれてしまえば、
書店に並ぶことはないのである。

このように考えれば、複雑な書店流通のシステムを知らなくても、
自分の本が全国書店に並ばない理由はわかるだろう。
つまり、書店サイドであんたの本は売れないと判断したから。
だから書店に並ばない。

書店がバンバン潰れている厳しい状況の中、
毎年ゴミクズのように書籍が出版されていて、
新刊が毎日約200冊以上も発行されている状況で、
限られた書店スペースで、どの本を置くかを考えれば、
自費だろうが何だろうが、よほど売れそうな本じゃないと、
置いてもらえないのは、作家になりたい馬鹿者でもわかるだろう。
自費出版会社の過剰広告・説明不足はさておき、
なぜ全国書店に自分の本が並んでいないのか、
自費出版会社のせいにする前によ〜く考えた方がいい。

ただなぜこうした問題が起きるのかといえば、
やはり自費出版会社の対応が問題なのだ。
私は新風舎とは1997年の自費出版以降にも、
何度もコンテストやら営業やらでコンタクトをとっているからわかるが、
とにかく「あなたの本は素晴らしい」と誉め殺しして、
まるで駄文の素人が作家先生になったような気分させるのが手だ。

そうなればまんざらでもないと思うのが著者としての心境。
まして出版業界に詳しくないものなら、
「編集者」と肩書きのついた単なる自費出版会社の営業マンに、
「あなたの本は素晴らしい、ぜひ出版すべきだ」なんてそそのかされたら、
「もしかしたら売れるかも」なんてバカな妄想を抱くことはあり得ることだ。

別に自費出版会社に限らず、日本の多くの企業でそうだが、
なんとか客をつかむために都合の悪いことはあまり説明しない。
自費出版会社が熱心に説明するのは、
「原稿が書けなくてもアドバイスする」だとか、
「未完成の原稿でも大丈夫」だとか、
自分で書けもしない素人「作家」を、
なんとか本にできる文字を埋めさせて、
自費出版させようという部分に注力している。

書店流通の仕組みとか書店営業体制とか、
聞かれれば答えるが、自ら詳しく情報は与えず、
ただ漠然と「全国書店流通可」と宣伝につかうだけだ。
確かにこうした点では、自費出版会社の説明が問われる部分はある。

自費出版会社には2通りある。
書店営業をやってくれる新風舎のような会社と、
書店営業せず、ただ冊子を作るだけの自費出版会社と。
自費出版する目的が「作家になりたい」なら、
書店営業している会社を選び、その分高いコストを支払う。
自費出版する目的が「自分の半生をまとめて知人に配りたい」などであれば、
書店営業する必要ないわけだから、
印刷コストとデザインコストだけで済むわけだ。

自費出版会社に騙されたという前に、よく考えてほしい。
自費出版する目的が作家になって売れることなのか、
それとも自分の想いを形にしたいだけなのか。
あわよくばその両方を、なんて甘い考えをするのも結構だが、
書籍の厳しい状況を考えれば、
全国書店なんかに並ぶはずはないと思った方がいい。

そもそも仮に全国書店に並んだところで、
1冊、棚ざししかされなければ、
本を手に取ってもらえる可能性は非常に低い。
並べば売れると思うのも大いなる勘違いである。

そしてもう1つ。
もし作家になりたいのなら、
または多くの人に見てもらいたいと思うのなら、
書籍の前にブログやホームページ、ケータイ小説をやりなさい。
インターネットは情報の渦で埋もれてしまうというかもしれないが、
毎日新刊が200冊以上も出ている書籍業界も、
十分インターネット以上に渦である。
ネットならコストがかからず、反響を確かめられる。
ネットで好評なら書籍化される可能性もある。
逆にネットで受けないのなら出版してもまず売れないだろう。

書籍という形にこだわり、かつ作家になりたいなら、
企画書つくって出版社を回りなさい。
自費出版して売れようって方法論がそもそも間違っている。
自費で出した自分以外の本を、
あなたは買いたいと思いますか?
自費でしか出せなかった本が、おもしろいと思いますか?

おもしろい本、売れる本なら、
どっかの出版社が出してくれる。
その営業努力を怠って100万、200万、自費出版会社に金を払って、
「全国書店に並んでない」と怒ったところでどうしようもない。

自分の本を出したいという気持ちは痛いほどわかるけど、
今や自費出版会社に大金払うことほどバカな方法はない。
出版する目的とその方法をきちんと考えれば、
従来型の自費出版会社を利用する人は、今の数分の1で済むんじゃないのかな。

まあいずれにせよ日本社会のビジネスは、
騙す人、騙される人があまりに多すぎる。
騙す側も問題だが、騙される側も騙されないよう、
十分勉強していただきたい。

・サラ金から作家に転身した私の方法
2008.11.18 東京スクールオブビジネス
マスコミ・広報学科の生徒約30名での講演再録

<序>
みなさん、こんにちは。
編集、ライター、カメラマンの仕事をしております、「かさこ」と申します。
現在、33才ですが、
編集プロダクションで正社員として働いているかたわら、
個人でもライター・カメラマン活動を行っておりまして、
文章の本が4冊、写真集4冊、
計8冊の著書を出版しています。

今、会社でやっている編集の仕事も、
個人でやっているライター、カメラマンの仕事も、
どちらも楽しくやっていてとても幸せです。

今でこそ、編集業界で楽しく働き、
個人としても本を出すこともできましたが、
今から約10年前、
みなさんとほぼ同じぐらいの20才ぐらいの時は、
やりたいことなんかまったくなくて、
今の自分の姿をまったく想像できませんでした。

そして何を血迷ったのか、
やりたいことがなくて進路に困ってしまい、
大学卒業後はサラ金のアイフルに就職しました。

やりたいこともなくて適当に就職してしまうような、
どこにでもいる、普通の人間が、
なぜこんな風に本を出せるようになったのか。
なぜ今、希望の編集業界で楽しく働くことができているのか、
私のこれまでの約10年の足どりをお話したいと思います。

今、進路に悩んでいたり、
就職は決まったもののこの先に不安があったり、
将来の夢は実現できるのか、
疑問に思っていたりする人も多いと思うので、
私の話がみなさんの参考になればと思います。

1:20〜22才:やりたいことなく、サラ金に就職
私が大学3年生、ちょうど20才過ぎぐらいの頃のこと。
そろそろ就職を考えなくてはいけないと思ってみたものの、
本当に困ってしまったんです。
だって、やりたいことがない。

そもそもサラリーマンになって、
やりたいことなんてできるわけないし、
サラリーマンになるメリットって、
仕事で自己実現するとかじゃなく、
安定した給料をもらえて、
そこそこ休みがもらえることなんじゃないかって。
そんな風な悲観的というか現実的な見方をしていました。

だからほんと、どこでも良かった。
ただやりたくないこととはいっぱいあるので、
ノルマが厳しい会社とかはのぞき、
嫌な業界や企業は消去法で消していって、
残った業界の企業に手当たり次第、
就職活動することにしました。

ただ私が就職活動していた頃は、
今の時期とすごく似ていて、
就職氷河期のはじまりだったんですね。
銀行がおかしなことをして、不景気になり、
新卒採用を絞るみたいな。
だから、一応、それなりに、
自己分析とか志望動機は考えなきゃいけないと思って、
やりたい仕事って何だろう、
自分の好きなことって何だろうって考えました。

まず浮かんだのが旅行。
自分の好きなことは海外旅行だったんで、
旅行関係はどうだろうかと。
でも旅行を趣味にするのと仕事にするのは大違いだろうし、
人の旅行の世話なんかしても楽しくないと思いました。
それに旅行業界は給料安いし、
土日とかも休めそうにないので、
就職先として旅行業界はやめました。

次に浮かんだのがマスコミ。
漠然と新聞記者とか出版社の編集者とかいいなと。
でもそれもすぐにあきらめました。
就職氷河期で採用人数が少ないから、
人気の高いマスコミ業界なんか受かるわけないとか、
出版社にはコネがなければ、
就職できないんじゃないかとか。

それにマスコミは、土日もなく、
徹夜れんちゃんで働かなきゃいけないみたいな、
そんなイメージがあって、
いまどき、そんな前時代的な、
自分の時間もなく家庭を犠牲にしてまで、
会社人間にはなりたくないと。

そうやって自分の興味のあることに、
言い訳つけて、どんどん蓋をして、
自分の道を閉ざしていったんですね。

そんな私を見かねて、うちの父親はこう言いました。
「公務員になれ」と。
私には専門知識もなければ特殊技能もない。
ただ今までちょっと勉強ができるぐらいしか能がなかった。

公務員は自分では向いているなと思いました。
安定した地位と給料があって、休みもそこそことれる。
でも、受験勉強してやっと大学に合格し、
今さらまた試験勉強なんかしたくない。
せっかくの楽しい大学生活を、
別になりたくもない公務員のために、
試験勉強で潰されてしまうのはもったいないなと思い、
公務員もやめました。

それで面接を受けたのは40社ぐらい。
通信会社、クレジットカード会社、サラ金会社、システム会社とか。
今のようにネット系のITベンチャーみたいなものは、
まだなかったんで、そういう選択肢もなかった。

消去法で選んだ業界の中で唯一、行きたいなと思ったのは鉄道会社。
そういえば子供の頃、鉄道好きだったなと思って。
鉄道は旅行に関連が深いし。
なかでもJR東日本が結構いいところまで進んで、
ここだったらサラリーマンだとしても、
旅行が好きな私にはきっとやりがいがあるし、
大企業で安定もあるし給料もいいし、
いいんじゃないかと思ったけど、ダメだった。

旅行と鉄道の融合なんて、
とってつけたような志望動機を言ったところ、
面接官から、「たとえばJR東日本内の場所でどこが好きですか?」
と聞かれたんです。

国内でいいなと真っ先に浮かんだのは、北海道、沖縄、京都。
でもどれもJR東日本の地域外だからマズイよなと思った。
海外旅行ばかりしていた私は、
国内で行きたい旅行地がまったく思い浮かばず、
何も答えられないのはマズイと思い、あわてて、
「国内ではないですけど・・・、
昨年行ったイギリスのエディンバラというところがすごいよくて・・・」
なんて答えたもんだから、面接官は変な顔をして、
その後は、連絡がありませんでした。

それできっと落とされたんだろうなと。
国内旅行地に興味がないこと、それほど研究してないことが、
あっさりバレちゃったんです。

クレジットカード会社も旅行とはわりと密接な関係はあったけど、
どうしてもカード会社に勤めたいわけじゃないから、
そこそこの段階まで行ってすべて落とされた。
そして私が受かったのはサラ金ばかり。
私は中央大学の法学部なんですけど、
中大の法科という学歴が、
就職氷河期には何の役にも立たないことを、
この時、思い知らされました。
サラ金に就職が決まった時、
私は人生の敗北みたいに思いました。

たいした志望動機もないのに、サラ金には受かったのは、
就職氷河期にもかかわらず、300人も新卒採用していたから。
当時、サラ金は、銀行が貸し渋りする中、
融資にはすごく積極的で、
無人機が登場した頃で、すごく羽振りがよく、
ユニークなCMで社会のイメージもよくなり、
東証1部上場を控えた、
不況の中の数少ない成長業界だったんですね。

だからサラ金になりたい志望動機なんか適当でも、
内定できたんでしょう。
こうして私はサラ金に入社することになりました。

2:22〜24才:サラ金職場は最高!でも会社を辞めて旅に出ることに
サラ金って社会的評価はよくないし、
お客さんにとっては高金利で金を貸す、
必要悪みたいな存在だけど、
働く立場になってみると結構いい会社だと思った。
土日は休みで、給料は高い。
3000人を超える大企業だけど、
若手もどんどん実力次第で昇進できる。
人生の敗北みたいに思っていたサラ金就職も、
まんざら悪くないなと思い始めていました。

実際、サラ金に入ってから仕事はラクだった。
新人の頃は仕事が覚えられなくって、すごく大変だったけど、
先輩社員がみんなふまじめなせいか、
私だけ新人だから、早く仕事を覚えなきゃと、
一生懸命まじめにやってたら、
店で融資営業のトップになっちゃった。

働いていた2年間、店だけでなく部でもトップの成績。
でもすごい仕事はラクだった。
私は毎日のように定時で帰っていて、
どの正社員よりも勤務時間が少ない。
店で仲良くなった悪い先輩と意気投合してしまい、
勤務中に昼間カラオケに行ったり、
先輩の家でゲームしたりして遊んでた。

9時ぐらいに会社に来て、1時間ぐらい仕事して、
「営業行ってきます」といって、
昼間、家に帰って寝て、
17時ぐらいに会社に帰ってきて、
1時間仕事をして帰るなんてことも、
しょっちゅうしていた。

それでも要領がよかったせいか、営業成績はトップ。
上司の評価も高かったので、
夏休みも冬休みも1週間とらせてもらい、
好きな海外旅行にも行けて、
こんないい職場はないと思っていた。
就職活動で苦労したけど、
サラ金に入って良かったと思って直していました。

でもどこかでマスコミとか旅行のことがひっかかっていて、
1年目のボーナス使って100万円出して、
新風舎という自費出版会社から、
「エジプト旅行記」を出版したんですね。

今から考えると恥ずかしいんですけど、
自分では最高傑作が書けたなんて思って、
この本が売れて作家デビューしちゃったらどうしようかとか、
10万部売れたらいくら印税が入るだろうかとか計算していました。

でも本屋に行っても自分の本は置いてないわけです。
素晴らしい傑作なのに書店になければ売れないじゃないかと思い、
自分で「旅行作家」なんて名刺を勝手につくって、
書店に自費出版した本を持って置いてもらうよう、
直接、書店に営業に行ったりもした。
もちろん置いてもらえませんよ。当たり前ですけど。

まあでも自費とはいえ、自分の本があるという満足感は買えたので、
本は記念としてはいいかなという気持ちになり、
毎日のラクで楽しいサラ金営業マン生活が、
生活の中心となっていきました。

ただ思わぬ転機がやってきた。
会社に入って2年目、24才の頃のこと。
年末年始に休みをとってインドに行こうと思っていた。
ところが12月、金を借りたいお客さんがいっぱいいて、
とにかく忙しくって、風邪ひいて熱がありながらも、
仕事せざるを得なくって、その時ばかりはさぼってもいられなかった。

もちろんそのおかげで、
すごい営業成績を上げることはできたんだけど、
結局、仕事の無理がたたって、高熱続きで、
もうこんな状態じゃインドなんか行けないということで、
旅行をキャンセルした。
年末年始の休暇中もほとんど寝て過ごしていました。

せっかくの休みを病気で寝込んでいると、
いろいろ悪いこと考えちゃうわけです。
仕事のせいで旅行に行けなかったみたいな、
恨みみたいなものがどんどん積もっていくです。

その時、ふと思ったんです。
この仕事をこのまま続けていいんだろうか。
仕事のせいで旅行に行けないなんて本末転倒じゃないか。
自分が今、一番やりたいことって何だろう。
その時に思ったのは、
沢木耕太郎さんの書いた「深夜特急」という、
長期でアジアやヨーロッパを旅するバックパッカー本を、
以前に読んだことを思い出して、
自分が今、一番やりたいことは、
深夜特急のような長期で旅行することなんじゃないかと。

やるんだったら今しかない。
今だったらまだ若いし取り返しがつく。
サラ金業界は楽しいけど、
やっぱり一生続ける仕事じゃない。

そんな風に思ったら急に元気になって、
インドに行けなかった悶々としていた気持ちが晴れて、
この頃から退職計画と旅行計画を立て始めた。
7月のボーナスもらったら退職し、
チベットとかインドとか、
中国のシルクロードの遺跡とか、
自分が行きたいところ全部行こうと。

会社を辞めて旅に出る。
かっこいいように思えるかもしれないし、
今の時代だったらそんなの誰だってできると思うかもしれないけど、
実際に自分がやるとなったらやっぱり大変だった。
親からはお前はバカじゃないかとあきれられるし、
学生時代から6年間つきあっていた彼女に、
その話をした途端、別れると言われるし、
(幸いにしてよりが戻って今の妻なのですが)
もちろん会社からも反対された。

この頃、私は店の売上げの4割を占めていた。
だから上司の店長は説得に必死になった。
そこで店長から思わぬ提案が出た。
旅行に行っている間、長期休暇にして、
旅行が終わったら会社に戻ってきてくれないかと。

この提案にはすごく揺れました。
だって長期で好きなだけ旅行に行った挙句、
その後、この居心地のよい職場が保証されているなんて、
どんなにか素晴らしい提案だろうと。
でもそれをやったら一生、この会社に仕えなきゃならなくなるし、
この頃から旅行を機会に、サラ金業界から足を洗い、
自分が本当にやりたかったトラベルライターになろうと思っていた。

幸か不幸か、この店長の提案は人事部で認められなかった。
ちょっと残念だったけど、これでスッキリして、
新しい人生をはじめられるなと思った。

それから4ヵ月、韓国、中国、モンゴル、チベット、
ネパール、インド、ウズベキスタン、トルコを旅行して帰ってきた。
よく「長い旅行をして価値観変わりましたか?」って聞かれるけど、
私の場合、会社を辞めて旅に出ると決めた時点で、
常識の価値観が変わっちゃってるから、
旅に行って価値観が変わってことはあんまりないんです。
ただ旅行はすごい楽しかったです。

3:25才:「3年でフリーになる」と宣言し、編集プロダクションに転職成功
存分に旅行を楽しんで、もう当面、旅行はいいやってぐらいになったし、
あとは一人暮らししていて、
お金も尽きてきたので、転職活動をはじめました。
これを機にライターに転職しようと。

大学時代に編集プロダクションの存在を知らなかったんだけど、
旅先で出会った人が、ライターになりたいんだったら、
編プロに就職するのが一番早いと知り、
編プロを数十社、手当たり次第、受けまくりました。
当時はまだリクナビとかネット転職サイトがなかったから、
履歴書書いてわざわざ郵送しなきゃならなかったんだけど、
ほとんど書類で落とされました。

まあそりゃそうでしょう。
今までサラ金に2年間勤めてた人間を、
なんでわざわざ編プロがとるのか・・・。
運よく書類審査を通って面接で呼ばれるのはエロ雑誌ぐらい。
さすがにそれは勘弁したいと。

あまりに落ちまくるので、もうこの年でかつこの経歴で、
編プロに転職するなんて無理じゃないかとあきらめかけていた。
もう編プロはあきらめて、
どこか別のサラ金大手に転職しようかとも真剣に考えた。
サラ金ならトップセールスという輝かしい成績を、
いくらでも好評価してくれるだろうし。

そんな時、面接に呼ばれた編プロへの就職が決まったんです。
クレジットカードの情報誌とか通販カタログ、
リクルート関連の雑誌などをやっている、
30人ぐらいいる大きな編プロだった。

ただ編集とはいえ仕事の内容は私に興味のないものばかり。
でも一度、編プロにもぐりこんでそのスキルを身に付ければ、
自分が希望する旅行書編集とかに転職できるはずと思い、
面接でこう言ったんです。

「3年でフリーになります」

この会社に転職が決まった後に社員に聞いたですけど、
この発言で私を採用するか賛否両論あったらしい。
3年で辞める人間を雇うのかという否定的な意見が多かったみたい。
ただ面接をした方がこの発言を高く評価してくれて、
「3年でフリーになるぐらい懸命に働くっていう、
意気込みのあるやつの方が会社にとってもいい」
と推してくれたおかげで、採用が決まったそうなんです。

人生ってたった一言で運命が変わることもあるんだなと。
後から思えばヒヤヒヤな出来事です。
もしかしたらフリー宣言したせいで採用されなかったかもしれない。
いや、この宣言がなかったら、
未経験者で印象に残らなかったかもしれない。
こうして25才にしてサラ金から編プロにもぐりこむことができました。

4:25〜27才:突如寝たきりになり退職&トラベルライターへ
未経験でサラ金からこの編プロに入れたことはほんと大きかった。
編集・ライターの基礎知識だけでなく、
パソコンの使い方から教えてくれたし。
ただ仕事はつまらなかった。
私が担当したのはカード会社のDM。
毎月、カードの明細書と一緒に送られてくる、
お店の紹介とかツアーの案内とかのDMです。

編集といっても企画を考えるわけでもなく、
クライアントが入れたい広告をただ載せるだけ。
記事を書くといっても、お店に取材に行くわけでもなく、
パンフレットを渡されて、100字ぐらいの紹介文を書く。
あとは旅行ツアー情報のただひたすら文字入力という単純作業。

しかも私にいろいろ教えてくれた先輩が辞めちゃって、
私がこの仕事を引き継ぐことに。
こんな仕事していても、編集・ライターの技術なんか身につかないし、
やりたい仕事でもないしと、
すごく不満を持ちながら仕事をしてました。

そして2年働いて大きな転機がきた。
カードの仕事だけでは自分のスキルは向上しないと思い、
社内の人から他の仕事をもらってしていたせいで、
すごく忙しくなってしまった。
特に一時期はほんと、ひどくって、
始発で家に帰ってシャワー浴びて1〜2時間寝て、
9時に出社するみたいな毎日を、
1〜2週間ぐらい続けてたんですね。

そしたら、ある日、突然、腰が痛くなんたんです。
それが日に日にひどくなって、
しまいには起き上がれなくなり、
完全寝たきり状態になってしまったんです。
今まで腰痛なんかしたこともない私が。

でも仕事は誰も変わってくれない。
だから自宅で寝たきりになりながら、
パソコンとファックス使って1ヵ月ぐらい仕事をしていた。
さすがにこのままじゃどうしようもないと思って、松葉杖を買ってきた。
杖を買ったら腰痛でも歩けるようになった。
杖をついて会社に行って仕事をしていたら、
なぜかまた普通に歩けるようになったんですね。

でもまた2ヵ月たって歩けなくなった。
もうどうしようもないと思い、切開手術し、入院することにした。
入院は1カ月かかるので、仕事は変わってもらい、
会社を辞めることを決意した。
自分の体がボロボロになってまでやりたい仕事じゃないと。
もうここで学べることはないし、
1年早かったけどフリーになるつもりだったから、
これを機にフリーになろうと。

手術のおかげで椎間板ヘルニアは無事に治った。
さあフリーライターだ、どうしとうかと思っていた時に、
会社にいた人が旅行ガイドブックをやっている編プロを紹介してくれた。
この時、結婚もしていたので、
フリーより社員の方がいいとも思って、
就職できないかといったんだけど、
フリーなら仕事はあるといわれて。

幸運にも、フリーで早速、中国取材の仕事をもらうことができた。
この時は自分ってすげえ!とか思った。
腰痛になって会社辞めたけど、そのおかげで念願のフリーライターに、
しかも旅行を仕事にできるトラベルライターになれたと。

でもその取材が終わってしまうと当面仕事がない。
フリーって待ってるだけじゃ仕事は来ない。
営業して仕事とってこなくちゃいけないんだってことに気づいた。
でもその時あんまりいい仕事がなかった。
フリーペーパーのお店取材記事で1件3000円とか。
交通費出したら手取り2000円にしかならない。
取材で1時間、移動で1時間、原稿で1時間。
時給換算したら700円にも満たない。
これだったらまだバイトした方がマシなんじゃないかと。
フリーライターってまさにフリーターだなと。

妻からはフリーライター(というかフリーター)なんてやめて、
早く就職しろと言われた。
はじめはフリーになるという夢を実現したと思っていた私も、
こりゃまずいなと思い始めた。

そこで旅行誌の編プロに転職しようと思ったんだけど、なかなか募集がない。
そこでマスコミ読本というのを買ってきて、
編プロが100社ぐらい載っているので、
その中から旅行関係をやっているところに電話をかけまくって、
雇ってくれって電話した。

何社か面接に行ったんだけど、2社で露骨にこう言われた。
「あんた結婚してんの?じゃあ無理だよ。
うちの仕事はキツイし、大変だし。
結婚しているあんたなんかに務まらない」って。
やっぱり旅行誌編プロは難しいのかと思っていたけど、
運良く、旅行ガイドブックをやっている編プロが、
私のことを気に入ってくれて社員になることができたんです。

前の編プロより規模も小さく、
社会保険も厚生年金ない。
手取りの給料は下がってしまったけど、
念願のトラベルライターになれた。

入社してすぐラスベガス取材に行くことができ、
その後も、アメリカ、ヨーロッパに取材に何度も行けた。
6人ぐらいしかいないこじんまりした編プロで、
私は、60歳の社長の片腕みたいな立場になった。
給料は高くはなかったけど、すごい楽しかった。
ここでは学研の仕事もしていて、
一般書籍の編集にも携わることができた。
今までやってきた広告系の編プロと違って、
自分で企画を立て、構成を考え、
取材して記事を書くっておもしろい仕事ができた。

5:27才〜現在(33才):著書8冊!カメラマン&ライターとして活躍
25才で編プロに転職してから、
旅行に行った体験記とか写真とかのホームページがあって、
毎日更新してたんですけど、
ちょうどその頃、ホームページで連載していたサラ金話が、
ある出版社の目にとまり、ぜひ出版化したいという話が来たんです。

私は舞い上がりました。
念願の自分の本が出せると。
まだ連載は書きかけだったので、
仕事の合間をぬって書き上げた。

ところが出版社の事情で本が出せなくなってしまったという。
すごいショックだった。
ホームページでも本が出るみたいなことを公言しちゃっていたし。
落ち込んでいたんだけど、20万字も書いた原稿を、
そのまま腐らせるのはもったいないと思い、
あちこちの出版社に打診しました。

でもほとんどが電話で「持ち込みはやってない」とか、
「新規のライターの人は受け付けない」とか、
「本を出していない人の本は出せない」とか。
企画書を見てくれても、
「うちはちょっとそのジャンルでは」と断られまくった。

また落ち込んでしまった。
でもなんとか本にしたい。
そう思って、聞いたこともない出版社も調べていろいろとあたってみた。
すると1社、サラ金関係の本を出している花伝社という小さな出版社が、
これはおもしろいといってくれて、念願の本を出せることになった。
そしてついにはじめての著書「サラ金トップセールスマン」が、
出版されることになったのです。

この時、思いました。
数うちゃあたる。
サラ金の営業で私がトップだったのも、
誰よりも数多くの会社に営業に行ったからだったんですね。
サラ金から編プロに転職できたのも、
あきらめず数をあたったから。

30才になって旅行誌編プロから金融系編プロに転職した。
給料面で厳しかったからと、
ガイドブック取材の旅行はある程度経験できたし、
もういいかなと。

旅行誌編プロから転職したので、
海外に行く機会は減るだろうから、
何か国内でテーマを見つけなきゃと思い、
猫とか工場の写真を撮るようになっていた。

本の次は写真集を出すぞと、
海外子供写真集を売り込みに、
グラフィック社という出版社に電話した。
そこで海外子供写真集を2冊も出していたから。
でも断られてしまった。
「その子供写真集の売れ行きがわからないので、
今、同種の企画を出せる段階にはない」と。
そこで私は「お墓に住むノラ猫撮ってるんですがどうでしょう」といったら、
一度、写真だけは見てくれるという話になった。

しかし猫写真は企画は通らなかった。
海外子供もダメ、猫写真もダメ・・・。
行き詰ってしまったと思いながら、
私は「あの、まだ撮りためしている最中なんですけど、
工場写真とかどうですか」
といってiPodに入れている工場写真を見せたです。
するとこの編集者がぴんときて、
「これはいい!」という話になったんですね。
それで工場写真集を出せるようになったんです。

しかもシリーズで企画が通ったので、
工場だけでなく、団地・路地裏・商店街、
学校、洋館などの写真も担当することになり、
そんなわけでこのグラフィック社との出会いで、
写真集が4冊も出せることになったんです。

今は編集プロダクションに勤めるかたわら、
写真集や本を出したり、
猫雑誌で猫写真の連載したり、
Webサイトで世界遺産の連載や工場写真の連載をやったりして、
マスコミ業界で楽しく働いてます。

以上が、私のこれまでの足どりです。
みなさんはきっと私の10年前より、
スタートラインとしてははるかにいいと思うんです。
やりたいこと、やりたい業界を考えて、
そのためにこうして専門学校に通い、
マスコミの勉強をしているわけですから。

マスコミのようなクリエイティブな業界にいると、
「私には才能がない」といって途中で挫折してしまう人も結構多い。
でも私が出会った言葉ですごく感動したものがあるんです。

才能とは持続する情熱である

この言葉を知って、世の中、これだなと思いました。
才能って持って生まれた能力なんかじゃなく、
どれだけ継続してあきらめずやり続けることができるか。
それが力になるのだと。

寝るのも食べるのも忘れて自分が熱中してしまうような、
楽しいことをずっと続けていけることが、
きっとそれが力になっていくんだろうなと。

私は文章書くのは大好きだし、写真撮るのも大好き。
本になろうがなるまいが、
金になろうがなるまいが、
私はずっとこれからも、
書き続けるだろうし、撮り続けると思うんです。
ホームページで8年間、毎日更新し続けてきたように。

それが少しずつ形になり、仕事になり、お金になってるんです。
若いとすぐに結果を求めがちだけど、
好きなことをやったからといって、
すぐに形になったり、仕事に結びつくかはわからない。
それでも好きなことをやり続ける情熱を持つことができれば、
いつかそれが仕事になったりするかもしれないんです。

今はしかもネットがある。
ネットで誰もが情報発信できる。
私もホームページに8年間、
文章やら写真やらいっぱいコンテンツがあるので、
ネット経由で仕事が入ってくる。
だから編プロで正社員しながらでも、
ホームページ経由で仕事の話が入ってくるので、
個人の活動ができるんだなと。

みなさんもそういう意味で、
非常に環境的にはチャンスに恵まれた時代にいると思います。
自分に言い訳せず、
自分が寝る間も惜しんでやってしまうような、
楽しいことは何かを考えて、
それを何年もやり続ければ、
きっと楽しい人生が送れると思います。

以上で、私の話を終わりにします。

※上記の講演内容は、講演用に作った台本のため、
実際に講演で話した内容を、
完璧に再録したものではありませんが、ご了承ください。

・無料で自分の本が作れる!
素晴らしいサービスが誕生した!
自分の本が無料(ただ)で作れるサービスだ。↓
http://www.honninaru.com/web_order/publish/

もう大金はたいて自費出版会社にぼったくられる必要はない。
見る目のない出版社に持ち込みなんかしなくていい。
せっかく本を出しても、新刊期間が終わるとすぐに返品してしまう、
書店はもういらない。
中間手数料をとってぼろ儲けする取次ぎもいらない。
出版業界に革命を起こすビジネスモデルといえるだろう。
近いうちに、私はこの無料サービスを使って、何らかの本を出したいと思っている。

なぜ無料か。
1:注文してから本をつくるから。
だからとりっぱぐれがない。
2:デザイン・レイアウトは自分でやるから。
自費出版なので金がかかる1つの要因はレイアウト代。
これを著者が自分でやってくれ。その代わり無料とこういうわけだ。

ちなみにこの革命的サービスは、日経新聞でも紹介されていた。
これはすごいことになる。
みんな、自分の本を1冊作っても、自分が購入する本代金分だけしかお金はかからない。
少部数の書籍をいくらでも何種類も簡単につくれる。
ネットで売ることだってできる。

まさにインターネット革命の1つの手法だ。
これで楽して儲けていた自費出版会社や取次ぎがぶっ潰れれば、
健全なわかりやすい出版業界ができるんじゃないかな。

・「ホンニナル出版」制作記


先日、つぶやきで紹介したコストなしで自費出版ができる「ホンニナル出版」。
これは素晴らしい仕組みだといろいろと人にすすめているのだが、
印刷、編集に詳しい人ほど「ほんとかよ」「大丈夫なのかよ」と疑いも強く、
私もどうせ金がかからないのだから、実験的に1冊つくってみようと、
制作作業をはじめた。

文章は別にホームページでアップすればいいわけだから、
どうせ作るなら写真集がいいなと思った。
実験とはいえいいものを安く作って多くの人に見てもらいたいなと思い、
まずはカラーで100ページぐらいだと製造原価がどのぐらいかかるのか、見積もりしてみることに。

メールアドレスとID、パスワードを登録すれば見積もりページにいける。
A5判でカラー100ページと入力すると、な、なんと製造原価は4330円!
自分の記念に1冊作るならともかくも、こんなんでは人様に買ってもらえる金額ではない。
50ページぐらいにしても2480円もかかり、残念ながらカラーは断念することに。

モノクロにすると当たり前だけど、カラーに比べて格段に安くなる。
100ページで1230円、70ページで1050円。
本を買ってもらう値段としては最高でも1500円ぐらいにしたいなと思い、
70ページで製造原価1050円+印税150円+印刷手数料300円でちょうど1500円になる。
よし、この線でいこうと早速、写真のセレクトに入る。

問題はカラーではなく写真をモノクロにしても、
人に見てもらえるよい仕上がりが期待できるかどうか。
はかねこ写真はモノクロにしちゃうと、舞台が墓だけに暗いイメージになってしまうし、
まあはかねこ写真は自信があるから、今年中にはどっかの出版社からお声がかかるだろうなんて思っていて、
はかねこ写真集はやめることに。

自分が今、一番作りたいものは、海外の人かなということで、
チベットや大理の写真を中心に、人物写真をセレクトしてモノクロにしていっているんだけど、
これがなかなか味があっていい。
これならカラーでなくてもいいだろうと思い、
土日はその写真セレクトがおもしろくって集中してしまい、
つぶやきかさこを放っておいてしまったというわけである。

さて、写真セレクトもさることながら、問題は自分で印刷入稿データを作れるかどうか。
普段の仕事で印刷物の編集をしているわけだけど、
入稿データやレイアウト、デザインを実際にしてもらうのはデザイナーなので、
自分で入稿データを作ったことはない。
ただ、このホンニナル出版の入稿方式では、
Excel、Word、PowerPoint、Publisher、InDesign、Illustrator、Photoshopなどの、
アプリケーションで作ってPDFに書き出しにすればいいという。
この中で自分が使えるのは、Excel、Word、Publisher。
写真レイアウトの使い勝手としては、Publisherがよいので、これで制作しようと思った。

ところがである。
Publisherで作ったデータをPDFにするのは簡単だと思っていたのだが、
Adobe Acrobatを購入しなくてはいけないのだ。
普段、無料の閲覧ソフト「Adobe Reader」を使っているので、
PDFの作成も無料ソフトかと思いきや、とんでもない。
見ると3万円近くもする。
おいおい、こんなに金かかるのかよ。これじゃ「無料」自費出版には程遠いなと困ってしまった。

ところが、よくデータ作成の方法を見てみると、Wordなら、Adobe Acrobatを使わなくても、
クセロPDFというフリーソフトがあるらしい。
よし、これならいいだろう。ということで、早速ダウンロードし、
使ってみると簡単にPDFを作成できるので、まず第一関門は突破したということか。

では早速、選んだ写真をPublisherではなくWordで作成していくかと思い、
今、写真配置や文章作成などをはじめてみたものの、
Wordって写真を配置する操作性が感覚的でないから非常に手間がかかり苦労している。
Wordを使いこんでいる人なら、そんなもん屁でもないんだろうけどなー。

というわけで、とにかく1冊作って、実際に本を見てみれば、
この「ホンニナル出版」がどのぐらいいいかがわかるだろうと、
すったもんだを繰り返しながら作業を続けている。
やっぱり自分で入稿データ作るの大変だから、お金を払って、
知り合いのデザイナーにやってもらえれば、
写真とそのキャプション程度でモノクロ70ページなら、
きっとあっという間なんだろうなと思いつつ、
それだと無料自費出版にならず、デザイナーの知り合いがいない人はできないじゃないか、
みたいな話になってしまうので、
まあなんとかできうる限り自力で無料でやってみたいと思っている次第です。

・ホンニナル出版制作記



自分で本のデータを送れば、あとは注文分しかコストがかからない、
初期費用ゼロのホンニナル出版制作を続けて1ヵ月。
ついに70ページの写真集データが完成し、先程、印刷所にPDFでデータを送った。

データを作ったアプリケーションはワード。
ワードなんかじゃレイアウトしにくいけど、
金がかからないフリーソフトでPDFにできるのはワードだけのため、
パブリッシャーを使うのは諦めてワードにしたが、
データが直感的に作れず、非常に参っていた。

そこで書店に行くと、そこそこではあるけど、結構あるのである。
「ワードで印刷データを作ろう!」みたいな本が。
多分、年賀状とかチラシとかパンフレットで、
大企業じゃなく、中小企業や個人事業主が上記のようなものを作るために、
専門ソフトではなく、ワードでもかなりのことができるというので、
このような本が出ているのだろう。

そこから立ち読みしたところ、ワードでも自由にレイアウトできるコマンドがあることを知る。
「挿入」から「図」そして「新しい描画オブジェクト」とすると、
ワード上に枠を作ることができ、この枠内は改行などしなくても、
写真やテキストボックスを自由にフリーレイアウトできるのだ。
この機能を知ったことで、ワードでもレイアウトがしやすくなったのだ。

ホンニナル出版にアクセスし、メールアドレスとパスワードを登録すると、
出版準備画面に進むことができ、そこからサイズや綴じ方などを選び、
それに応じて、トンボのついたフォーマット台紙のワードをダウンロードできる。
それに上記「新しい描画オブジェクト」を作り、ページ数分コピーして、
そこに1つ1つ写真やテキストボックスをレイアウトしていけばいい。
これはすごく簡単で、別にデザイナーでなくても一般人でもそこそこのものができる。

さて、こうしてすべて70ページのデータを作り終え、表紙も作り終えた。
このワードデータをPDFにするにはフリーソフト「クセロPDF」を使えば実に簡単。
ワードを「印刷」にして「クセロPDF」を選べば、ワード文書がPDFになるのだ。

よっしゃ、これでサイトにアップしてすぐ出版だ!と思ったら、
この段階で本登録する必要があるという。
登録用紙をプリントアウトし、個人情報と本人確認できる書面コピーと、
印税振込み先などを郵送しなくてはならない。
「いまどき郵送なんて面倒だよなー。ネットでやれよ、ネットで」
と思いつつ、郵送すると中1日でこの印刷所からメールに連絡がきて、
本登録用のパスワードをもらえる。
このパスワードをサイトで入力すると、作ったデータをアップロードできる画面にいける。

私は写真集で70ページに70点近くあるせいか、PDFが200MB近くなってしまい、
サイトからのアップロードに手こずるかと思いきや、エラーもなく、
わりにスムーズにアップできた。

本日の作業はここまで。
アップしたものが正しくデータが作られているかを印刷所がチェックの上、
連絡がくるということだ。

そんなわけでホンニナル出版企画、順調に進んでます。
最難関の「自分でレイアウトデータを金をかけずに作る」には成功したので、
あとは、「ちゃんときれいな印刷物なのか」という点。
あくまで今回はテストケースなんで、一度やってみて、
これがかなり使えるようだったら、
このホンニナル出版を使ってばんばん本を出そうかなんてことも考えてます。
ま、あんまり印刷がよくなかったらそれはそれでテストケースの教訓としては、よかったかなと。
なんたって自分の本を作って費用は自分が注文した冊数分だけなので、
私の場合は1冊1500円のコストでこれを試せるのだから安いもんだと思う。



また次の段階に進んだらご報告します。
とにかく、何事も、口だけでなく、やってみなきゃはじまらんからね。
なんか、いろいろな成功者見ていると、これに尽きるんだなと最近つくづく思う。
実践あるのみなんだなと。

・ホンニナル出版制作記
3/1にネットで本になるPDFデータをアップ。
すると翌日、すぐに印刷所の担当者からメールで連絡が。
本文のデータで一部不備があるので修正してくださいとのこと。
@A5のはずがB6になっている
→原因は不明。もう一度、PDFデータを作成したらOKだった。
A一部写真が仕上がり線ギリギリになっているため、
製本時に変な白が出てしまうとのこと。
→すぐに塗り足し領域まで写真を拡大

上記すぐ修正して、3/3に再度データをアップ。
すると3/4、土曜日にも関わらず、夜23時ちかくに、
データが間違いないことを確認しましたというメールが。
これで出版準備が完了。
後はサイトに出品する手続きをするのみ。

といっても、出品用の価格を決めるだけ。
製造原価1050円で、自分の印税150円を設定すると、
印刷所のロイヤリティが定価の20%で300円になり、ちょうど1500円になる。
これで出版確定をクリックすると、なんとすぐにホンニナルマーケットで、
自分の本が販売になった。

すごい!すごすぎる!
何がすごいかって、その早さ。
データをアップしてから、データの確認、販売までわずか3日。
しかも、こうして自分の本を出版したのに、ここまでまったくお金がかかっていない!
まさしく完全無料自費出版といえる。

ちなみに自分用に本を買いたい場合は、何冊でも製造原価で買える。
たとえば、私の場合、製造原価は1050円だから、
仮に100冊購入しても10万5000円。
これはね、ものすごい安いですよ。
だって自費出版会社に頼んだら、100万円ぐらいは平気でとられるわけだから。

これはね、革命的サービスです。
自分の本を出したいって思っている人、いっぱいいるはず。
高いお金だしてぼったくり自費出版会社に頼む必要がまったくなくなったわけです!
私なんか9年前に新風舎から「エジプト旅行記」を自費出版して100万円ですよ。
それでもね、この時、他の会社に打診したら200万円とか見積もりが来た。
それが、今や、ゼロですよ。ゼロ。

自分の本を出したい!
作家になりたい!
そんなあなたは今すぐホンニナル出版を!
ぼったくり自費出版会社はもう全滅するでしょう。
これがうまく商用出版にも馴染めば、ぼったくり取次会社も全滅です。
インターネットで中抜きぼったくり業者はいらなくなる。
ほんとこれはすごいです!

というわけで、制作期間1ヵ月弱、あっという間にデータの確認が終わり、下記ホームページで、
かさこの海外子供写真集が販売になりました!
http://www.honninaru.com/web_order/publish/market/shousai.cfm?b=30000154

・2006年3月13日 海外子供写真集「視線の彼方」発売!
コストゼロの自費出版サービス「ホンニナル出版」で作成した、
海外子供写真集「視線の彼方」が発売されました。
私の手元に現物が届きましたが、
@紙は厚さがあり、わりにしっかりしているので、
写真の裏うつりなどはまったく心配なし
AA5サイズで70ページとはいえ、写真70点はなかなか見応えあります
B市販されている写真集よりは残念ながら印刷精度(写真の見映え)は、
質が落ちてしまっていますが、データ作成の手違いで、
解像度が足りなくてどうしようもないといったものはありませんでした
という感じでした。

ただネットで販売されている税込み1575円で買っていただくには、
ちょっと忍びないクオリティですので、
@私から会って直接お買い上げいただく方は1000円で
A私にメールでご注文いただければ、郵送料込み1200円で
販売することにいたしました。

(もちろん1575円でよければ、ホンニナル出版のサイトからお買い上げいただけます)

上記値下げが可能なのは、著者が購入する場合は、
製造原価1050円で購入できるからです。(50円はサービスします)
ご興味のある方は、ぜひご連絡いただければ幸いです。
kasakotaka@hotmail.com
※ホンニナル出版は在庫ゼロで注文があり次第、製本・印刷して配送となりますので、
私がホンニナル出版に注文後、私の手元に届くのは6〜7日後になります。

写真はすべてモノクロで、計70点の海外子供写真を収録。
チベット、ネパール、中国雲南省・大理、ベトナム、ロンボク島、中国・トルファンほか、
オーストリア、チェコ、ポーランドで撮影した写真もあります。
ご興味のある方はどうぞよろしくお願いいたします。

・海外子供写真コーナー

・はじめに〜作家になりたい馬鹿者に告ぐ
「誰がこんな同人誌なんか読むんだよ、バカ!」
家に帰ると、タカシは同僚の慎二からもらったA5判の小説集をゴミ箱に勢いよく投げ込んだ。
「バサッ!」と音がしたのは多少のうっぷん晴らしにはなったものの、
なんだかまたムカツキを覚えてきた。

「ちょっと恥ずかしいんだけどさ、オレ、小説、書いてるんだよね。よかったら読んでよ」
な〜んていって、妙に優越感に浸って自慢気に、
そして、押し売りのごとく有無を言わせず、
「無料(ただ)であげるんだから」といわんばかりの押し付けがましさ。

誰も他人のマスターベーションなんかみたくない。
一人でやって一人で気持ちよくなってりゃ、それでいいじゃねえか。
なんでそれを他人に見せようとするのか。
それは変質者が外でいきなりちんぽを曝け出して、
ほれみろと追い回すのと同じぐらい野蛮な行為ってことに、なぜこいつらは気づかないんだ。

っていうかさ、つまらないんだよね。
仕方がないから帰りの電車の中で読んでみたけど、ほんと、つまらない。
妙に小難しい四字熟語とか使ってみたり、言い回しが回りくどかったり、
設定や構成がやたら複雑で、それがまるで権威があるみたいに思い込んでいるのか。

どの小説もお決まりのごとくに、性描写と暴力描写がある。
セックスと暴力を書けば小説になると思い込んでいるバカなやつらがここにもいる。
こういう、小説ごっこっていうかさ、作家気取りってほんと胸糞悪い。

日本人の半分以上は作家になりたいと思ったことがあるらしい。
その理由はいたって簡単だ。「印税で楽して儲けられそうだから」。
ばっかじゃないの。そんなの夢物語ってことになぜ気づかないんだろう。
職業研究すれば簡単にわかることなのに。

仮に、一冊の本を出版したことがある人を「作家」と定義するならば、
友達にだっているし、親戚とかにもいるけど、そいつらは印税だけで食っているわけじゃない。
ちゃんとまっとうに仕事をしてる。
本の出版はおまけみたいなもので、小遣いがちょろっと入ってきたぐらいらしい。
印税だけで食える作家など、ごくわずかなベストセラー作家だけだってことを知らないのだろうか。

そもそも「かっこいい」だの「楽して儲ける」だのって、
不純な動機な奴らに人を感動させられる物語が書けるかよ。
売れてる作家は楽して儲けてなんかいない。
作品に対するこだわりも半端じゃないし、綿密な取材もしてるし、
自分勝手な妄想なんかだけで書いていない。なんかの片手間なんかに文章書いてないし。

「土手」と名づけられたこの同人誌には、慎二以外に5人の文章が掲載されていた。
立派な装丁のわりに、中身が、すなわち文章がちっともおもしろくない。
日記と小説を勘違いしてるんじゃねえか。他人に見せる文章ってことがどこにも感じられない。
書きたいもん書いて自己満足に浸るのは結構だが、それに他人を巻き込むな。

だいたい、今時、同人誌なんて流行らない。
なぜこいつらは、ホームページやブログで書かないのだろうか。
慎二に聞いてみたが、「やっぱり本っていうのはそれ自体が文化だから」とか、
もっともらしいわかったようなことをいう。

ホームページやブログで小説を書いている奴らを、
これまたもっともらしい文化論で、とことん批判していた。
ネットみたいなバーチャルな世界で作品を発表するなんて、
文章を書くものとして恥ずかしい行為だ。それは文章の垂れ流しだと。

閉口して何も言い返せなかった。
確かに、ホームページやブログで書いている奴らだって、
どうしようもないマスターベーション文章を書き綴っている。
しかし、奴らは、恥を知っているはずだ。
上っ面だけで「いいね」って言ってくれる友達だけに同人誌を配っているわけではない。
ネットで公開している以上、不特定多数に見られる可能性がある。
だから時には容赦のない批判にさらされることもある。
そういう覚悟をまだネットで書いている奴らにはあるけど、
ネットを否定して同人誌しか作らないアンポンタンにはそれがない。

「ネットで発表しちゃうと盗作されちゃうかもしれないし」
−オマエは何様か!どこぞの有名作家気取りでいるんだろう。
盗作されるぐらいのもん、書いてみろよ。

「ネットで発表しちゃうと賞とかに応募できないし」
−ネットで個人的に発表したものは未発表扱いになることも知らねえのか。
っていうか、賞に一度でも応募したことあんのかよ。

結局、こいつらは、ネットについていけない自分の技量のなさと意思のなさと覚悟のなさを、
ネットはバーチャルだからダメなんだって話にすりかえているだけだ。
そのくせ、文章を書くときに必要な調べものとかは平気でネット検索する。
こういう中途半端さが余計にムカついてくる。

慎二に吐くべき言葉をぐっとこらえたタカシの様子を見て、
何を勘違いしたか、慎二はそれを肯定ととったらしい。
慎二はネットで作家デビューした奴らを批判し始めた。

「ネットで書かれたものなんかクズばっかだよね。
携帯で書いた連載が本になったなんとかって本とか、
ブログから書籍化された『鬼嫁日記』なんて、ただの妻の悪口集だよ。
そして極めつけは『電車男』。
あれが本になった時、立ち読みしたけど、日本の文学は終わったなって思ったね。
あんなのが書籍化されて、人気になっちゃう日本ってどうかしてるんだよ」

タカシはため息をついた。慎二が得意気に話せば話すほど、そのあまりの愚かさが際立ってくる。
のどもとまで出かかった彼への批判をごくりと飲み込んだ。
こういう奴らに議論を吹っかけてはならない。昔、痛い思いをした経験があるからだ。

奴らは反論すればするほど、ヒートアップして自分の主張を正当化するために、
読書と辞書で覚えた難しい単語と屁理屈で攻めてくる。火に油を注ぐだけなのだ。
こういう時に一番聞くのは、平然と聞き流すことだ。それが奴らには一番、応える。

確かに『電車男』が文学といえるかといわれれば、ノーと答えるだろう。
あの2ちゃんねる独特の言い回しにも虫唾がはしり読むに耐えないと思う。
でも、ストーリーはおもしろい。それだけは間違いない。
だからあれだけ売れたんだろうし、映画化されたりドラマ化されたりしたんだろう。
というか少なくともこの同人誌に書かれている文章より圧倒的におもしろい。

しかし、同人誌を書くような奴らにはそれがわからないのだ。
日記でない限り、人に読ませる限り、おもしろくなければならない、と思う。
「おもしろい」ってのは、別にゲラゲラ笑わせることだけじゃないし、
奇想天外なストーリーがあることだけじゃないし、
へぇーと思わせるうんちくがあることだけじゃない。
人が読んで、考えさせられる何か、それはたった1つでいいのだ。
それがあればいい。稚拙な文章だろうが、単純な構成だろうが、それがあればいいのだ。

しかし、この「土手」に書かれている小説は、どれも文章が巧みなわりに心に響いてくるものがない。
何が言いたいのかわからない。小難しく書いているだけの文学ごっこなのだ。
ごっこをやるのは内輪だけにしてくれ。他人に見せるな。
オレが言いたいのはそれだけだ。

物思いに沈んで黙りこくっていたタカシに、慎二はこう声を掛けた。
「タカシも、次回から書いてみない?」