哀愁の町、ブダペシュト かさこワールド 写真貸出


超有名レストランの評価
ハンガリーで最も有名な、といって過言ではない、
老舗のレストランにグンデルという店がある。
「最も有名」という意味はハンガリー国内での有名というより、
対外国に向けても非常に有名という意味でもある。
だから政治家やら芸能人やら世界的なスターはだいたい訪れることになる。
このような超有名レストランは、当然どのガイドブックでも、
だいたい一番トップに紹介されることが多い。

このグンデルについて、ハンガリー在住の日本人3人とハンガリー通の日本人1人の間で、
非常に評価が分かれている、興味深い現象を紹介しよう。
ハンガリー在住で比較的、年齢のいった男女2人はこのグンデルを絶賛している。
普段自分が行くという意味ではなく、日本から大事なお客さんが来たら、
まず間違いなくこのグンデルに招待するという。
ところが比較的若い女性2人は、グンデルはたいしたことはない。
グンデルよりアラバルドスというレストランの方がはるかにいい、というのである。
その理由として、グンデルは観光地化されてしまって、味はあまりよくない。
アラバルドスの方が味がはるかにいいということなのだ。

このようなグンデル反対派の意見に対して、賛成派の1人はこういった。
「別に味なんてどうだっていいのよ。それよりあの音楽!(夜になると生演奏が行われる)
あの音楽と店の雰囲気でみんなぽわ〜んとなって、とっても素敵ってことになるんだから」

私はどちらかというとグンデル反対派に共鳴していた。
雰囲気だけよくて味の質を落とすなんて、計画的な観光ビジネスじゃないか。
名が売れていてそのブランドを利用して、一見の観光客を騙して金儲けする、
超有名レストランっていっぱいあるからなと。

しかし翌日、私はグンデルの取材に行き、意見は変わった。
やはりグンデルはすごいな、と。
店の雰囲気が申し分ない。
アラバルドスは好き嫌いが分かれる雰囲気だが、グンデルはいわゆる高級レストランの雰囲気があるので、
トラディショナルなハンガリーレストランという雰囲気はまずしないだろうが、
旅行客が高い金出しても満足できる雰囲気だろう。
私が取材に行ったのは営業前の午前中だが、それで雰囲気がいいと感じたのだから、
これが夜になり、音楽があったら、そりゃ、うっとりするだろうなと思った。

そして対応がすばらしくいい。
これはあくまで取材対応してくれたマネージャーの対応という意味だが、
いろんなところから取材されているだろうに、
そういうところにありがちな、「取材者じゃまだよ、必要最低限のことだけやって帰れよ」みたいな対応ではまったくない。
日本の一ガイドブック取材に実に丁寧な対応をしてくれて、
こちらのリクエストにいろいろと応えてくれた。
メディア対応がきちんとしているところは、確かに戦略的な計算的な「対応のよさ」かもしれないが、
メディアも1人の客であるという発想を忘れていないから、とてもいい。
(アラバルドスが悪かったわけではないが)

というわけで、私は「グンデルたいしたことない」という人の意見もわからないでもないが、
読者が日本の旅行客であることを考えれば(まして歩き方ではなくるるぶであれば)、
グンデルはまったく問題ない、すばらしいレストランだという結論に達した。

グンデル反対派の2人は、もう何度もハンガリーに来ている(一人は住んでいる)し、
もう何度もグンデルにもいってるだろうし、違うレストランにも行っている。
相当なハンガリーリピーターからすれば確かにグンデルは「たいしたことない」という結論に達しても、
彼女らの立場なら仕方がないなと思うし、私もこっちに住んでいたらそう思うだろうけど、
ようは対象は日本人旅行客である。
彼らがはたしてハンガリーという国に何度来るか。
日本人にとっての旅行対象地としてのハンガリーは、
一生に一度行くか行かないか、という場所に過ぎない。
しかも平均滞在日数はせいぜい2日か3日ぐらいだろう。
その中でどこにディナーに行くかということを考えると、
そこでかの有名なグンデルを抜かすことはやっぱりできないだろうなと思う。
(個人旅行客やリーズナブル志向の旅行客は別だけど)
グンデル反対派は何度も自分が行っているから「あそこはたいしたことない」と切り捨てられるけど、
一生に一度、しかも2日か3日しかいない日本人旅行客にとっては、
「グンデル」という超有名ブランドを切り捨てることはできない場所だと思う。

ただ、そういう「ブランド巡りのツアー旅行」というスタイルは徐々に消えていくはず。
そうなれば別にグンデルに行かなくてもアラバルドスに行かなくても、
ガイドブックに載っていない適当に入った店で、オーダーするのに悪戦苦闘しながら頼んだものが、
とってもおいしかったような、そういう旅の仕方の方が思い出に残る可能性は高い。
若い世代で個人旅行ならそういう傾向が高く、
年配2人がグンデルを愛用する利用は、年配世代で団体旅行客を相手にしているからだ。
そのような違いは確かにあると思う。

私の立場としては、グンデル絶賛派のようにグンデル偏重になる必要はなく、
かといってグンデル反対派のようにグンデルを切り捨てることもせず、
グンデルは外さず、でもそのほかにさまざまな選択肢があるよというようなメッセージを、
伝えていければなと思う。
ただ、グンデルは相当値段は高い。
ディナーの予算は1万円ぐらいするので、私の世代が個人で旅行しても、まずは行かないだろうけど。
それだけ歴史が息づいて、今もしっかりと根付いているからだろう。