Atomic Heart ミスチルトップ かさこワールド

Atomic Heart(94.9.1)
このアルバムから、ミスチルの作品が変わる。
「Dance Dance Dance」「ラヴ コネクション」といった曲は、
恋だけを歌っていたポップで軽妙なポップバンドから、
現代を切り裂くロックバンドへの変貌を見せた。
恋を題材にした曲にも、他のアーティストにはない、一味違ったアクセントが加わっている。

諦めにも似た開き直りというべきか、
現代の運命と若くして悟ってしまった心なのか。
ポップ〜ロックまで完成された作品を幅広くつめたこのアルバムは、
文句なくミスチルアルバムの中で最高峰だろう。

●Printing

●Dance Dance Dance
もがいてる将来有望な僕らがいるよ

ミスチルの中でもノリノリの名曲。
出だしのエレキギター音が鳴るだけで、ゾクっとさせるような、感覚的な曲。
現代社会へのフラストレーションを、
狂いに狂って踊りまくれと歌うこの曲は、
大ブレークしたミスチルの「虚像を背負ったロックンロールスター」の姿が描き出されている。
桜井君独特と社会を捉えた毒のある詩が、曲とあいまって踊り狂いを加速化させる。

●ラヴ コネクション
お気に召すまま僕を転がしてくれよ

性欲っといっていいのだろうか。
恋だとか愛だとかぬかしたって、所詮は性欲なんだみたいな、
そんな詩を、狂った欲望を、人間としての本能をテンポよく歌い上げたこの曲。
「Dance Dance Dance」と並んで、他のアーティストにはない、
ミスチルワールド独特の世界を作り上げた楽曲といえるだろう。
恋に依存することでしか生きていけない現代人を詩で表現。

●innocent world
知らぬ間に忘れてた笑顔など見せて虹の彼方へ放つのさ揺れる想いを

放つ願いを、内なる思いを、切なくそして伸びやかに歌い上げた曲。
暗い日常の中にあって、夢に向かって歩いていこうという決意表明ともとれる。
歯切れのよい、解放感に満ちた曲。
でもその裏には苦しさや悩みがある。
それを忘れていないからこそ、そのバランス感覚が、現代人と共鳴するのだろう。

●クラスメイト
君といれば他のどんなものもささいな事に思えてくる

切ない恋を日常のさりげないシーンで描き出す。
ミスチル初期作品を思わせる曲が、
このアルバムにこの一曲しか入っていないことが、かえってその存在感を大きくした。

●CROSS ROAD
崩れてく音もたてずに果たせぬままの夢

別れから、新しい出発を決意した、前向きな歌。
悲しみ、迷い、戻らないといった過去への悔恨の言葉が、ちりばめられているにもかかわらず、
それを忘れることはきっとできないだろうけど、
それを受けとめて「新たなる道を行こう」「輝く未来へと続く」といった
前向きな第1歩を踏みだそうという、自らも鼓舞するかのような応援歌だ。

次回ツアーの「regress or progress」という、退歩か進歩かというどちらかではなく、
うまいことバランスを取って生きていこうという前向きな想いが込められている歌だけに、
切なくそれでいて明るく、リズミカルで一歩一歩踏みしめていくような力強いテンポが、
多くの支持を取りつけた理由だろう。
ミスチルブレイクのきっかけとなった記念すべき曲である。
まだこの頃は、かろうじて平均台の上をバランス取りながら歩いている桜井君の姿がよくわかる。

●ジェラシー
なぜ人は愛という愚かな夢に溺れる
形あるもの皆、終わりが来るというのに、不思議な程、美しき君の肉体

ジェラシーというより、理性と本能の狭間に思い悩む一つに人間。
宇宙、遺伝子、人類、地球、世紀末のニュースといった大局的な宇宙観の中で、
一つの塵に過ぎない一個の人間が、魔性や母性や、肉体や愛に魅せられて、
屈折した感情を本能のままに吐露した、実に奥深い作品。
詩の世界にしても、曲にしても、新たな境地を開いた異色の作品といえるだろう。

●Asia
描いてた理想の暮らしは脆く、虚しさの中ただ明日を夢見る

これもまたジェラシーに似た曲調。
日常の視点とアジア、国家、社会という視点を織り交ぜた作品。
殺伐とした世の中において、一人の男と一人の女が、
見果てぬ夢や理想の暮らしを追い求めて、でも社会や時代に裏切られて、転げ落ちていく。
そんな現代社会の人生観を描いている。

●Rain

●雨のち晴れ
優秀な人材と勘違いされ、あの日の僕はただ過酷なしがらみをかき分けては頭を下げていた

これも失恋の歌。しかしテーマとなっているのがサラリーマンというのが妙味。
日常をさりげない、でもそこにこそ人間のエゴや本性が立ち表れているような歌詞を
さらっとちりばめているところが実にいい。
「親友との約束もキャンセルして部屋でナイターを見よう」なんて、
まさしく現代的な孤人主義を暴き出している。
実に意味深な歌詞群に思い当たる節のある人も多いのではないだろうか。

●Round About
存在する意味を見出せないでむさぼる欲望

欲望のままに生きることによって、現代社会の虚しさを紛らわそうとする若者たちの
心情をこれほどまでに描き出した作品はない。
セックスに身を任せて、肉体の欲望だけで一時の快楽を得ても、
本当に求めているものはいつまでたっても手に入らずに、
町を孤独にさまよっている少女たち・・・
中学高校の社会の授業で取り上げて講義すべき詩だろう。

●Over
いつか街で偶然出会っても今以上に綺麗になってないで

ミスチルの女性ファンから圧倒的支持を誇るこの曲。
曲・詩としては、失恋を歌っていながら明るくリズミカルな曲調という、
いわばミスチル初期作品の集大成的曲だ。
社会を嘲笑し挑発するかのような、社会派作品より、
若い女性は、切ない恋物語を欲していることがわかる。