保手濱彰人 かさこワールド

・保手濱彰人講演会から見えた、若者の心理と時代の要請 (2006.2.28up)

ホリエモンのかばん持ちにして、現役東大生社長・保手濱彰人氏の、
初の単独講演会が2006.2.26(日)19時〜20時30分、文京シビックホールで行われた。
彼の講演会の内容をなぞったレポートは主催者に任せるとして、
私のレポートは「なぜ保手濱彰人氏なる人物が、大学生に人気を集めているのか」
という点に絞って書きたいと思う。

ちなみに、講演内容については、
@これまでの経歴と現在に至るまで
A携帯電話仕事術&トーク術の磨き方
B今後の展望
の3部構成で、@については、以前のインタビューを読んでいただければ、
講演会で話した内容が網羅されているので、そちらを参考に。



●「迷える」大学生にとっての“身近な”成功モデル

この講演を聞いて、保手濱彰人氏が人気を得ているその理由がわかった。
彼は、現役大学生にとっての「手が届きそうな」スターなのだ。

IT革命に伴い、これまでの時代では考えられなかった、
若い世代の起業家社長が大きな影響力を持つ時代になったことで、
大学生や若者に「起業ブーム」が起きている反面、
それは裏を返せば、今までのように、
いい大学、いい企業に入っても、安定した生活を望めないという不安も、同時に立ち込めている。
実際に、若者のアンケート調査などでは、
起業ブームとは裏腹に、安定志向を求める学生が増えているのだ。

そこに輪をかけてマスコミが「勝ち組・負け組」「格差社会」を喧伝し、
若者の不安を煽っている。
高度成長時代における日本人の人生設計モデル(いい大学→いい企業→幸せ)が、
今や崩壊しているのは自明にもかかわらず、
なぜか未だに「いい大学」に入ることだけは目標とさせられた、かわいそうな若者たち。
その目標を達した若者の中の「勝ち組」であるはずの、
東大をはじめとした高偏差値大学に入学した大学生が、
合格したものの、その先の進路について思い悩んでいるのだ。

このまま、いい企業に入ることがいいことなのか。
それとも。起業することでホリエモンや藤田社長のように勝ち組になることがいいのか。
起業か就職か。
でもどちらもメリットもありデメリットもあり、どちらの進路に決めかねている、
または、就職してもたいした人生は望めないとはわかっちゃいるけど、
起業するほどの勇気もないし、やり方もわからない。

そんな高学歴大学生にとって、保手濱彰人氏は、
起業という1つの答えを出し、それを在学中に実践し、
ホリエモンのかばん持ちにもなり、テレビやマスコミで取り上げられるほどの成功を収めている。
迷える大学生にとって保手濱氏は、まさに「身近な」成功モデルなのだ。
だから、彼は多くの大学生に支持され、今回のような講演会が成り立つのだと思う。

60名定員の無料の講演会に約50名ぐらいの参加者がいたが、ぱっと見た限りでは約9割が大学生。
しかも後半の質疑応答で大学名と学年を名乗った人から推察するに、
@かなりの「いい」大学であること(東大、一橋、上智など)
A1、2年生が多い(すなわち就職活動をまだはじめていない、進路に思いあぐねている学生)
が圧倒的に多くを占めているようなのだ。

●「起業したいと口で言う奴は多いが、実践する奴は少ない」by ホリエモン
もし彼が、ホリエモンのように、大学を辞めてしまい、仕事だけしかしていなかったら、
大学生にとっては、規模は違えど、ホリエモンや藤田社長と同じように、
「手が届かない」経営者になってしまう。
しかし保手濱氏は、まだ大学に在学し、会社を立ち上げたばかりで、
まだ本格的にビジネスがはじまっておらず、
起業サークルの代表としての活動も行っているから、
「身近な」存在として感じられるのではないか。

だからこそ、逆にこの点を批判する人たちも多くいて、
サークル活動に過ぎないんじゃないかとか、大学生の遊びだとか、
ビジネスやるなら学生辞めてそれだけに打つ込めといった批判が、
彼のブログのコメント欄にあるわけだけど、
今、彼が人気を得ているのは、現役学生にしてもう何十億の売上とかあげているとか、
そういうことではないのだ。
起業か就職か迷っている学生に対して、これまで何をしたらいいかわからなかった一学生が、
起業しようと目覚めてたった1年でここまでやってきた、やれるんだということを、
実践していることを評価されているのだと思う。

それは2005年秋に放送されたTV番組『ガイヤの夜明け』の、
ホリエモンと保手濱氏のやりとりが物語っている。
ホリエモンはかばん持ちの保手濱氏にはまったく取り合わない。
無視に近い。

ところが後日、保手濱氏の事業計画のプレゼンをする際に、
ホリエモンは真剣に話を聞いてくれ、そして100万円の出資を約束してくれる。
なぜか。
「だって起業したいって口だけで言う奴はいっぱいいるけど、みんな実際にやらないじゃない」。
でも保手濱氏はこの時、数日後に会社の登記をしにいくことになっていた。
だからホリエモンは、事業内容がどうのということではなく、
「起業を実践した」ことに対する評価として100万円ぐらいの出資なら安いと判断したのだろう。

かばん持ちの際、保手濱氏がホリエモンに「世界一の企業をつくる」というと、
「じゃあ今、ここにいちゃダメだ」とばっさり言ったのは、まさにそのこと。
すなわち口だけじゃなくて、実践しろ。
それも遠い未来ではなく、今すぐ実践しろ。
今すぐ実践しない奴は、俺は信用しない、とそういうわけなのだ。

確かに今、大学生の中で「起業ブーム」があり、
保手濱氏が出場したDREAM GATEのような大会に参加するものも増えているのだろうが、
その大会参加者すべてが実際に起業するわけではないのだ。
大学のサークル活動の一貫としての「いい思い出」「いい経験」で終わらせてしまうものも多いだろう。
しかし、それでは、結局「いい企業」に就職するだけになってしまう。
だから、保手濱氏のように、単なるサークル活動にとどまらず、
ホリエモンのかばん持ちを「大学時代のいい思い出」に留めずに、
実際に会社を設立し、これから事業を始めようとしていることが、
多くの大学生に「すごいな」「本気なんだな」と思われているのだと思う。

●人生設計モデルの崩壊に目をつけた教育ビジネス
いい大学に入りいい企業に入ることが必ずしも幸せではなくなっている。
彼はまさしくそこに疑問を持ち、だからこそ教育を変えなければならないと、講演で語っていた。

「これまでの教育は、いい大学に入りいい企業に入る「A」というモデルに対応した、
「A’」ということしか提供してこなかった。
でも豊かな社会になり、社会構造が変わってきて、
必ずしも「A」という生き方だけではなく、「B」や「C」といった生き方も出てきた。
だからこそ「B」や「C」に対応する「B’」や「C’」という教育が必要なのだ」と。

なるほどなと思った。
私もまさしくそのことを思う。
たとえば、今回のオリンピックを見ても思うんだけど、
素晴らしいフィギュアスケーターの才能の持ち主がいても、
それを伸ばす教育というのは、よほどのお金持ちが、学校を終えた後の私的な活動として、
お金を注ぎ込まない限り、あり得ないわけだけど、
果たしてそれでいいのかという問題がつきまとう。

これこそまさに格差社会で、金持ちしか優秀なフィギュアスケーターになれないとしたら、
社会にとってこんなもったいないことはない。
お金がなくても才能があるスケーターを育てる環境。
それが社会や経済の活性化にもなるわけで、
そうなるとこれまでの画一的教育ではダメなんだと思う。

別にこれはフィギュアに限ったことではなく、他のスポーツでも音楽でも職業でもそうなんだろうけど、
さまざま才能を伸ばす教育環境が極めて脆弱なように思う。
もちろん専門学校とかフィギュア教室とかあるんだろうけど、
そのためにはものによっては桁違いのお金がかかるわけで、
実際にフィギュアなんかでは「金持ちでないとどんなに才能があっても続けることができない」
という現実がある。

一億総中流という名の一億総ペコちゃん人形の時代は終わったわけです。
「格差社会」だのと収入の高低ばかりを強調するマスコミに辟易するわけだけど、
みんながみんないい企業に入ってサラリーマンになってその会社に一生勤めるって時代は、
もうとっくに終わっているのに、それに必死にしがみつこうとして、
だから「格差社会」といって批判したりするんだろうけど、
「格差」社会じゃなく「多様」社会になったと私は思う。

別にフリーターだろうがニートだろうが、親が金持ちでそれで生活できるなら、
それも1つの生き方なのかもしれないし、
自分で起業するのもいいだろうし、転職を繰り返すのもいい、
年齢や家族構成に合わせて働くスタイルを正社員だけにこだわる必要もない。
経済的に豊かな社会だからこそできる多様社会が生まれているのに、
それを「格差」だといって、また国民総ペコちゃん人形にしようとしている輩がいるわけです。
でももうそんな時代じゃない。だから教育が変わらなければダメなんだと。
そこに保手濱氏は目をつけ、教育を変えたいという思いを、
ビジネスにとって変えていきたいと思っている。
私はそれに大賛成だし、だから彼を応援したいと思っている。

※それを実践しているのが、この前、仕事でインタビューしたワタミの社長・渡邉美樹氏で、
彼は私財を利用して学校を丸ごと買い取り、「夢」教育をカリキュラムに取り入れ、
モチベーションの低い教師を入れ替え、まさに「B’」「C’」の教育を実践している。
*私が取材してその時、書いたインタビューは、
近日中にhttp://www.taxhouse.jp/mag-money/にアップされる予定です。

保手濱氏が社長を務めるホットティー株式会社は、まだ会社を設立したばかりで、
ビジネスの大きな柱を模索していた段階だったが、この講演会でついに明かされた。
「今年度中に学習塾を開講する予定」。
ついに彼のビジネスが実際に動き出したのだ。

ただし、この学習塾は「B'」や「C'」を教えるものではなく、
ひとまず「A’」=すなわち、現受験勉強に打ち勝つための教育を提供する予定だ。
それは「A’」の教育ですら、つまらなくって下手な教師が多いということから端を発している。
「楽しくてわかりやすい教育」を提供するため、
志を高く持ち、教え方の上手な講師を集めて、
中学受験、高校受験の学習塾を運営する予定とのことだ。

彼はこれまでの自分のノウハウを活かせる「A'」を足がかり、
ビジネスとして成功を収める過程の中で、「B'」「C'」の教育もしていきたいという。
私はこれは実に懸命で現実的な選択だと思う。
いきなり「B'」「C'」の教育からはじめても、ビジネスになるかは微妙だからだ。
彼の東大ブランドと彼のメディア露出を活かして、学習塾ブランドを作った上で、
徐々にやりたいことにシフトしていけば、それでいいと私は思う。

●「超早口」な保手濱氏がこめる想い
彼の写真やブログから受ける、どちらかというと優しくおっとりとした印象とは裏腹に、
彼は超早口である。
彼とはじめメールでやりとりをし、取材前に一度電話で話した時、
その早口ぶりに「別人」かと思ったぐらいである。

そんな早口がブログでも時たま揚げ足をとるかのように批判され、
また、なんとこの講演会でも、質疑応答の一発目の質問が、
別に悪意を持ってされたわけではないんだけど、
「なぜ保手濱さんは早口なんですか?」というものだったんだけど、
私は一度、取材をして話をしているせいか、あまり気にならなかった。

彼のはじめての単独講演会で、しかも彼一人だけで1時間以上話すということに、
私は2つの心配をしていた。
@早口で聞き取れないぐらいの速さだったらどうしようか
A早口であっという間に話す内容を話し終えてしまって、時間が余ってしまうのではないか
ということである。
しかし、その心配は杞憂に終わった。

確かに人より早口であることには変わりないが、
はじめてとは思えないほど、講演は実にしっかり順序立てて話をしていて、
来ている学生にとっては非常にわかりやすかったのではないか。
そして何より、彼が話すスピードは速いかもしれないけど、
その分、彼の熱意とか強い想いがしっかり伝わってくるのだ。

起業してみたいけど、どうしようか迷っている。
そんな彷徨える学生の背中を押すという意味では、
話すことが次から次へと湧き出てくる彼の話すスピードというのは、すごくいいと思う。
アツイ想いが伝わってくる。
だから私は早口を不快には感じなかったし、
また、先日取材した際も、たった2時間話しただけなのに、
あふれるほどの文章が書けた。
それだけ情報量が詰まっていることは本人がいうように確かだと思う。

そして彼は、起業する上で大切なこととして、自分の想いを人に伝えること、
それには、自分が「強く想うこと」だと言っていたのが印象的だった。
本心から本当に自分がやりたいと想っていることであれば、
話し方が多少下手だろうが、早口だろうが、伝わるのだという彼の言葉は、
単なる表面的な技術的な「トーク術」よりも私にはすごく説得力があった。

たとえば、私が出版における場面で、ある出版社やクライアントに、
企画案を出してプレゼンする場合でも、
本当に自分がやりたいと思うコーナーと、ただ「やらされて」作ったコーナーでは、
その思いの違いが伝わってしまうという経験がある。
そういうことをテクニック的なことでごまかすトーク術より、
これから起業をめざす学生に対して「強く想うことが伝わる」というのは、
非常にいいアドバイスではないかと思った。

以上、保手濱彰人氏の講演会レポートでした。
また、彼の活動を随時追っていきますので、今後ともよろしくお願いします。