石田衣良書評 By 書評ランキング かさこワールド

・アキハバラ@DEEP
最近、石田衣良にはまっている。
複数の方から「おもしろいよ」とすすめられ、
なんとなく軽薄っぽいイメージで、
題材も今を狙った軽いものが多いので、忌避していたのだが、
読んでみるとこれがなかなかおもしろい!

山崎豊子とかはぜひみなさんに読んでほしい作家なんだけど、
文字量も多いし、時折難しい詳細な説明も出てくるし、
とっつきにくさはあるかもしれないんだけど、
石田作品はほんと軽いけど、現代を題材にしたシャープな切り口で、
すっと読めるので、気軽にチャレンジできるのでおすすめだ。

そんな中で最近読んで実に考えさせられたのが、
「アキハバラ@DEEP」という作品。
ストーリー自体は見え透いているし、
設定におかしなところとか、えっと思う部分は多少あるにせよ、
それを上回るストーリーのおもしろさとテーマの良さがあるから、
わりと一挙に読めてしまう良作品。

ここで彼が提示しているテーマが、
今後のネット社会における重大な点なので、実に興味深かった。
それは、ネットで提供するサービスが、
オープンにするか否かということ。
主人公たちが画期的なサーチエンジンを開発し、
ネットで無償提供するわけなんだけど、
その素晴らしいソフトに目をつけたIT大手企業が、
それを乗っ取り、有料会員のみに提供する、
自社の囲い込み戦略にしようというものだ。
まるでヤフーBBのごとく。

インターネットサービスで、ユーザーから金をとることは非常に難しいし、
またそれをクローズにしておくのも非常に難しい。
考えてみれば今すごいことだけど、
検索エンジンだって路線検索だって地図だって、
みんな無料で利用できてしまうわけです。
こんなことって今までの時代の概念ならあり得ないこと。
無料で利用できちゃうし、一度ソースがネットに出回ったら、
いくらでも複製できるしわっと広がっちゃうから、
クローズすることすらできない。

そこで著作権の問題やら開発者のコストの問題やら、
様々な問題が起こっているわけだけど、
でもやっぱりネット社会って、無料でオープンじゃないと、
流行らないんじゃないかなと思う。

でも開発者や発信者が金をとれる仕組みがないと、
みんなボランティアになっちゃう。
これで社会が成り立つんだろうかって不安もある。
たとえば音楽や映像なんか、一度出回ったら、
いくらでも複製して世界中にばらまけてしまう。

じゃあ音楽家はどこで金をとるのか。
パソコンに取り組めないようなシステムをCDに組み込むのか。
ユーザーのモラルに訴え続けるのか。
いずれも限界があるだろう。
なら一層のこと、無料でオープンにしちゃったら?
っていう流れが今、猛然と加速しているように思う。

「アキハバラ@DEEP」はそういう新しい時代の、
これまでにはあり得ないが、確実に押し寄せている波を、
半歩先を提示している。
画期的なサーチエンジンを開発した人たちは、
別にそれで大儲けしようとは思っていないし、
IT大手が囲い込み戦略をしようとしたって、
ソフトがアップされればいくらでもモノマネで作られてしまう。
Youtubeの驚異的なアクセス数を考えてもそうだけど、
こうした観点からもNHKを有料化しようなんて、今時あり得ない話なのだ。

たとえばiPodで息を吹き返したアップルだけど、
はじめはMacユーザー囲い込みの一商品だったのかもしれないけど、
そんなこともいってられず、ウインドウズ対応版も出したら、
あっという間に普及し、今や携帯オーディオの覇者になった。
ソニーの最近の元気のなさを見てもそうだけど、
自社で独占して儲けるために、
他社との互換性を断ち切った瞬間、
ユーザーが不便になり、他へ流れてしまうという、
そういう現象がおきているのではないか。

ソフトバンクなんかまさにそれなわけです。
自社で独占するために、無料でモデム配ってBB会員にさせたり、
BB会員になったら様々な便利なサービスが利用できるようになったりして、
必死に囲い込みしているけど、
地図、検索のグーグル、SNSのミクシィ、動画のYoutubeと、
昨年はあらゆる分野で惨敗したわけだけど、
それってやっぱり妙な囲い込み戦略をしようとしたからじゃないか。

ミクシィは招待制という点がちょっと違うけど、
でもこの3つのサービスは誰もが無料で使える。
ネット社会はまだほんと黎明期だと思うんだけど、
これからどんどんオープンに、そして無料化が促進されていくように思う。

逆にそういう時代だからこそ付加価値をつけようと、
有料でクローズに切り替えたサイトとかもあるけど、
成功しているとは思えない。
アクセス数が激減してしまえば、
そこに媒体価値もスケールメリットもなくなってしまうのだから。

最近ではウインドウズの囲い込みを打破する動きが出てきている。
ワード、エクセルに似たソフト提供や、OSそのものの提供など、
オープン、無料化がどんどん広がっている。

さて、そんな無料時代に、文章を書いたり、写真を撮影したりする私は、
どうやって食っていこうかなんて時折考えるわけだけど、
もしかしたらネット社会って、
究極のボランティア(助け合い)社会になる可能性まで秘めているとすると、
ビジネス、資本主義経済という概念が、
根本からひっくり返ってしまうのかもしれない。

まあ幾分、楽観的な見方かもしれないけど、
今後、ネットの第二段階の時期に差し掛かり、
世界・社会は大きく変わっていく大転換期に差し掛かっているのだなと、
つくづく思う。



4TEEN 石田衣良
★★★★
2003年直木賞受賞作品ですが、非常にいいです!
なんか、とても甘酸っぱくて切ない青春小説。
現代社会の問題を底辺にちりばめながらも、
少年たちの清々しい姿がなんともいえない。

特にはじめの話「びっくりプレゼント」には驚き!
おもしろいのでネタバレしませんが、
このようなテーマをこんな風に描くのかってのが、
すごく斬新でおもしろかった。

おすすめできる本です。

池袋ウエストゲートパーク
★★★★
非常に軽快な文章でストーリーテンポがよく、
シンプルな話ですっと読める魅力はすごい。
やや主人公ができすぎでそんな奴いねえよ的な感じは気になるが、
まあそれは許せる範囲かな。

この本は4編の短編集なのだが、
「サンシャイン通り内戦」が、主人公の弱さもあり、恋もあり、
そして無益な戦いだけどあり得そうな問題でもあり、
この話がもっともおもしろかった。

少年計数機(池袋ウエストゲートパーク2)

★★★★
おもしろいです。
ほんとよくできている。
軽いノリで読めて、でもどこかスパイスがちゃんとちりばめられているっていう、
そのバランス感覚がいい。
浅はかすぎないけど軽く読める娯楽小説として、
完成されたシリーズ。
読む本がない方はぜひおすすめします。

骨音(池袋ウエストゲートパーク3)
★★★
このシリーズの中ではやや物足りない感があったが、
なかなかおもしろい作品であることには変わりない。
このシリーズは非常に微妙なバランス感覚で成り立っていて、
すごく深くテーマに突っ込みすぎると、
妙なドキュメンタリーになってしまうし、
かといって浅すぎると、表面だけさらったうわっつら小説になってしまい、
その距離感のとりかたが絶妙でおもしろいのだが、
今作はややその距離感が浅かったのか、
それともテーマそのものの着眼点がいまいちだったのかなという気がする。

電子の星(池袋ウエストゲートパーク4)
★★★★
4つ話があるが、どれもわりに示唆に富んでいて、
なかなかおもしろい。
このシリーズにはずれはないなと再認識。
池袋ウエストゲートパークはおもしろいです。
エンターテイメントなんだけど、
そこにちりばめられている断片が社会問題や、
ファッションに通ずるところがあるから。

LAST
★★★
「ラスト」をキーワードにした短編集。
短編ゆえ、おもしろいのもつまらないのも混じっているが、
わりに金がらみの話が多い。
短くてあっさりしてしまって、
ちょっと物足りない感があるが、
逆にいえば、いい暇つぶしにはなる。

波のうえの魔術師
★★★
フリーターがデイトレーダーへ。
現代をうまくとらえた映画。
株式投資と銀行の問題をうまく絡め、
経済問題をうまく描いている。
ただ「こんなにうまくいくか?」みたいな、
ややストーリーの展開がスムーズすぎるのが気になるが、
硬くなりがちな経済小説をここまで身近に描いたという意味では、
非常にユニークではないかと思う。

うつくしい子ども
★★
これまで石田作品でハズレたことはなかったが、
今回は唯一の駄作だなと思った。
(ネタバレ注意)
本の帯には殺人犯の犯人の名が書かれている。
13歳の弟の真相を知りたいと、
中学2年生の兄が調べ始めるんだけど、
この兄が現実にはあり得ないぐらいできすぎている。
だから物語からリアリティがまったく感じられない。
嫌がらせをされても耐え、警察で調べられなかったことを、
いとも簡単に調べ上げ、そして「真犯人」を突き止めるのに、
彼らが自殺するとその秘密を守ってあげる。
そんなこと、あり得るだろうか?

さらに、この作品が最もダメなのが、
「真犯人」の存在である。
真犯人は実際には手を下しておらず、
弟の犯罪は許さざるべき残虐なものなのに、
無実の兄が犯罪をそそのかした「真犯人」を発見することで、
まるでその真犯人すべてが悪いような物語に結果としてなっている。
結局それじゃ、誰か悪者を作ってバッシングする、
本書で批判するマスコミと何ら変わりないだろう。

ということで、他の石田作品はおもしろいですが、
これは非常に賛否分かれると思うので、
はじめに読むには到底すすめられない作品ですのでご注意を。