書評・花村萬月By 書評ランキング

ブルース
いやあ、世界は捨てたもんじゃない!
久々にこれぞ文学!っていうか、これぞ小説!って本に出会えましたな。
こういう作品こそ芥川賞とかにすればいいんだけど、
(といってもこの人は違う作品で芥川賞を取っているのだが)
ほんと素晴らしい作品でした。

この作品を読むにあたって、かなりマイナスイメージと抵抗感があった。
まずこのふざけた作者名、なんとなくアウトロー的な雰囲気、そして聞けば、暴力と性描写ばかりという。

暴力とセックスと酒ー
この3つしか描けない作家って僕の中では毛嫌いしている。
確かにすべて人間の根源的なテーマなのかもしれないけど、
ストーリーが無茶苦茶で、ただもうとにかくストーリーに詰まったら、
変態性描写と変態暴力描写で、何がいいんだかさっぱりわからん。
それを我が物顔に「これぞ文学」みたいにわかったような顔をする。
花村萬月の作品もこういう類のものではないかと、僕は忌避していたのだ。

しかしこの「ブルース」はまったく違った。
はじめこそそんな雰囲気が漂い、到底想像のつかない暴力描写に嫌気がさしそうになるわけだが、
これは単なるこの作品のプロローグにしか過ぎなかった。
読めば読むほど深い話になっていく。
単純なハッピーストーリーかと思いきや、そんなものでは終わらない、底知れぬ現代人の闇を見事に描いている。

主人公の名が「村上」というのもなぜか、村上龍や村上春樹の「村上」を思い起こさせてしまう。
彼らが描きたかった主人公。
典型的な現代人で、ちょっとインテリで賢く、
他人とは違うという圧倒的な優越感を持っているにもかかわらず、
ただ格好つけなだけで、行動がちぐはぐで、でもそのおかしな行動を、知ったような屁理屈で正当化してる。
素直に気持ちが現せないタイプ。
女にももてるんだけど妙にどこか冷めたりしている。
人生を達観しているふりをしているような冷めた視線を持ちながら、
かといって自殺する勇気もなく、
でも社会的にはちょっと変わり者でみんなから一目置かれるような存在。

まさしく村上春樹、村上龍作品に出てくる、自分自身を投影したかのような、主人公がこの作品に出てくるんだけど、
作者の投影っていういやらしさが感じられず、
彼らよりはるかにその主人公の心理とか行動とかを、無様なまでに描ききっている。

その舞台を、両村上作品のように、
コピーライターだの作家だのというまさしく自分自身のかっこつけ職業じゃなくって、
日雇いの労働者という底辺という境遇を用い、
アメリカ行きでの挫折という経歴で見事なまでに描いている。
この辺に作者のマスターベーションを感じさせない、
作品の主人公としての完成度の高さを感じるわけです。

550ページにも及ぶ長編だけど、全然長いと感じさせない。
むしろ物語が進むにすれどんどん奥が深くなっていく。
この作品の奥深さはすごいですよ。

まあ主人公が最終的に選んだ道(つまり結末だな)をもしかしたら悪く捉える人がいるかもしれない。
確かに僕も最後の結末に何か納得がいかないようなもの
(つまりこの主人公が本当にこういう選択をするのか?ということ)
も感じないわけではないが、
やっぱり上記のような主人公像を考えた時、
そのような結末がふさわしかったのかなと思う。

それこそがまさしく嘲笑されるべき現代人のかっこつけインテリなのだから。

いやいやほんとによかったです。この作品。
おすすめです。はい。
ただ女性読者には向かない作品かもしれない。若干男性向きなのかなという気はするが。

二進法の犬
単行本でなんと1091ページという超長編。
そんなきちがいじみた長さの小説なんてと思うかもしれないが、実におもしろかった。
1000ページもあるにもかかわらず、とにかく「この先どうなるんだろう?」と、
先が読みたくて、長いことによる中だるみもなく、一挙に読んでしまった感じ。

この小説をおもしろくしているのは、主人公のキャラクターだ。
頭は賢いが、社会からはどこか馴染めず、はみ出してしまい、
かといって完全なアウトローにもなりきれない主人公。
「ヤクザよりもっと始末におえないのが、正論を吐く人々だ。
援助交際はいけないと説きながら、女子高生が迫れば周囲を見まわしホテルに忍びこむ。
その程度の正論の輩ばかりだ。」
主人公とはこの「正論の輩」なのだ。

そんな中途半端なエリート気取りの主人公に、つきあいだした女の子がこう言った。
「なにがニュースが見たい、よ。恰好つけすぎよ。
仕事で疲れきったわたしには、堅苦しいものなんて受けいれる余地がないのよ。
わたしのこと、テレビドラマばかり見ている頭の足りない子って思っていたでしょう。
でもね、お堅い番組を見ることができる人って、たぶんちゃんと働いてないんだよ。
体力があまってるの。必死になって働いてごらんなさいよ。
たぶん、あなただってお堅い番組なんか見られなくなるわよ」

いやあ、実におもしろい指摘だな。
この会話だけを抜き出すと、多少強引な感じもしないでもないけど、
話の前後の流れや、省いた会話部分を総合してこの部分を読むと、
ほんとおもしろい指摘だなと思う。
このように「京大卒」でサラリーマンを辞め、家庭教師をやっている、
正論の輩である主人公の、この社会における中途半端さというのが、
実に巧みに描かれていて、実におもしろい。

そんな中途半端な頭でっかち野郎が、ヤクザとのつきあいを通して、
完全なアウトローとのつきあいを通して、人間的に成長していく姿を描いている。
ドラマティックな出来事あり、ヤクザならではの事件あり、
おもしろい話の連続で長さを感じさせない物語だった。

多少、うんちく話っぽい長ったらしい会話も出てくるのが、
難といえば難だが、それは適当に流し読みし、雰囲気だけつかんで、
先をどんどん読んでいけばよろし。

エンターテインメントでありながら、そこに現代社会に生きる人々の問題を織り込む手法は、
実によくできているし、1000ページにもかかわらず、まったく長さを感じさせない物語の展開の早さがある。
僕の中では最高ランクに入る本だが、「プラハの春」や「深夜特急」など万人受けする本とはいい難いので、
まあ、機会があったらぜひ読んでみて欲しい。

渋谷ルシファー
69
いやー、おもしろいなー。萬月は。
停滞気味だった読書生活に本を読む楽しみを思い起こさせてくれたな。
文庫本で270ページ足らず。
はじめに読んだ「ブルース」のあの圧倒的な濃密感とドロドロ感はないが、
これもブルースを1つの軸に据えた物語。
もしかしたら「ブルース」なんかより、軽く読める分、
こっちの方が読みやすくて一般受けしやすいかもしれない。

僕としては「ブルース」に比べてしまうと濃密感がないような気もするが、
(というのもすべてハッピーエンドになってしまったからかもしれない)
それでもショートストーリーとしてのおもしろさは抜群だ。
入り組んだ人間関係、巻き起こる事件、頂点をめざして切磋琢磨する若者たち・・・

僕がこれまで読んできた小説の多くは、おもしろいものであっても、
設定の強引さや結末の納得のいかなさを感じてしまうんだけど、
この作品にはそれがまったく感じられないから、すっと読んでいけて物語世界に入っていける。
ほんとおもしろくって、一挙に読んでしまった。
こういう作品を読むと小説の素晴らしさと、
それを書く作家の素晴らしさに惚れ惚れしつつ、自分には真似できないなと思う。

この作品に細かな解説はいらないと思う。とにかく手にとって読んでほしい。
おもしろい作品ってのはそういうもんだな。
ま、「ブルース」よりテーマが軽いってこともあるから、
詳しく解説を書く必要がないっていうこともあるんだけどね。

眠り猫
66
ブルースに比べるとテーマの奥深さはないが、
ストーリーの展開のおもしろさはあって、1日で一挙に読んでしまった。
終わってみればなんだって気もしないでもないけど、
次々と個性的なキャラクターが登場し、いろいろな話が巻き起こり、
一体この先どうなるんだろうっかっていう展開力は見事なまでだ。

軽い読み物としては非常におもしろいけど、
ブルースのような深いテーマ性はない。
こういう作品を書き分けられるっていうのも、多分才能なんだと思うな。

それにしても実によく話がまとまっている。
宮本輝なんかだと、確かにこのぐらい先を読ませる展開力があるんだけど、
読みながらどこかで「これは違うよな」とか思っちゃうんだけど、この作品にはそれがない。
引っ掛かりがなくって、スムーズに素直に読める。
このぐらい軽いと、ブルースのような濃密さもないし、
またこの作品はある意味、女性が主人公になっているから、
女性が読んでもおもしろいと感じられる作品かもしれないな。

ゲルマニウムの夜
この作品を読んで、切実に思ったこと、
それは、これまで読んだことのない作家の作品を読む時、
どの本から読むかが非常に重要であるということだ。
もし僕が花村萬月の本の中で、この芥川賞受賞作品から読み始めたら、
ひょっとするともう二度と他の花村作品を読もうと思わなかったかもしれない。

幸いにして僕はこの作品から読まなかったおかげで、
花村萬月は非常におもしろいと思えた。
今回読んだこの芥川賞作品は、僕がこれまで読んだ花村作品の中で最もつまらないものだった。

ただどうもこのような評価は一般人には一般的であるようだ。
僕に花村萬月を進めてくれた人も、芥川賞作品はあまりおもしろくないから、
他のものから読んだ方がいいといっていたし、
もう1人、花村萬月好きの人も、
「ゲルマニウムの夜」なんかより「ブルース」こそ芥川賞だ!といっていたぐらいだ。
僕もほんと同感で、お偉いさんたちが決める芥川賞というのは、
まったく一般人的評価を無視した、おたく的評価で、
ようは難しいものを取り上げて自分たちがそれをわかったような偉そうなことをぶつくさいうことで、
自分たちの権威をあげようという、非常に情けないものではないかと、
僕は切に感じている。

さてさてこの芥川賞「ゲルマニウムの夜」だが、
細部にはいろいろとおもしろい部分はあるし、非常によくできてる話だなと思えるところもある。
しかしそういった部分より圧倒的に紙面をさいているのは、変態性欲と異常暴力である。

男同士のフェラチオ、痰を舐める男、
口に石を詰め込んでガムテープで口を塞いで蹴り飛ばす、金玉を蹴り飛ばして飛び出てしまう・・・
こんな話をこと細かく描写されておもしろいと思う方がちょっと無理ではないか。
普通の人が読んだら「気持ち悪い」というのが正直な感想だろう。

それをお偉いさん方は、人間の本能に潜む変態性欲や異常暴力を細部に渡って描写することによって、
人間の本性を見事なまでに書き上げたとかなんとかいって、芥川賞にしたのかもしれないが、
ちょっと普通の読後感とはあまりにかけ離れた評価の仕方であるといわざるを得ない。

確かに、異常なものを描く事によって、我々が「正常」だと思い込んでいることに揺さぶりをかける手法や、
人間の「異常性」を研究することによって、人間の本質をつかみとる研究方法というのはあるわけで、
心理学や社会学などではそのような手法はありうると思う。

たとえば特異な新興宗教を研究する。
それは一般人からみたら「そんなバカなこと誰もしないよ」と思うかもしれないが、
正常な人がそういった異常性のある宗教にはまってしまうのは紙一重であり、
また異常宗教が代弁していることは、今の日本社会の異常性に対するアンチテーゼだったりする。
そういう意味で、異常なものを研究することによって、自分たちを考え直すというのはありうるわけだ。

しかし、じゃあこの作品がそうかっていったらどうだろうか?
人の痰を舐めたいと思うか?それを細部にわたって描写されて、
「これは実に見事に人間を描いた作品だ」なんて普通の人がいうだろうか?
この作品をおもしろいと思うだろうか。
他の作家にもあるが、セックスと暴力だけ描いていれば人間の本性を語った気になるのって、
あまりに安易でちょっと何か勘違いしてるんじゃないかと思う。
もちろんそういう作品が少しはあってもいいと思うのだが、
極端な異常性を描く事は簡単だけど、ありふれた日常を描く事の方がはるかに難しい、
そのありふれた日常に潜む異常性という描き方は難しいからあまりやらないのだろう。

ただこの作品は、さすがは花村萬月と思える節があり、
そういった変態性欲描写や異常暴力描写が中心とはいえ、
テーマとなっている「宗教」「神」に対する部分の物語は痛快ではある。

修道院という治外封建的な特殊社会におけるそれぞれの異常性、
キリスト教、イエスといった宗教、神といったトリックを、
若い主人公がいとも簡単にそのトリックを打ち破っていく様子、
そして神の存在、不存在についての考え方と、
人間がつくった神という姿勢と、すべては言葉ありきという「言葉」の重要性。
この辺について描かれた部分は実に見事でおもしろく読める。
単なる変態性欲や異常暴力描写だけにとどまらない確固としたテーマ性があるから、
まあそれでも最後まで読めたし、他の作家とは違い、花村萬月はすごいなと思える要因だった。

ただ「ブルース」「眠り猫」「渋谷ルシファー」「触角記」とこれまで読んできた作品に比べると、
先を読みたいと思わせる部分はなく、読むのも非常に義務的な感じだった。
これまで読んだ作品は眠くても先を読みたいと思うあまり、
無理して起きてまでも読書に集中してしまうぐらいのおもしろさがあったが、
残念ながら「ゲルマニウムの夜」にはそれがなかった。
テーマはいいのだが、変態性欲描写があまりに多いので、嫌になってしまうのだろう。
これから花村萬月を読もうと思う人は、この作品から読まない方がいいと思います。

皆月
おもしろかったなあ。
なんか「ブルース」を彷彿とさせるような、萬月作品の中でも、
かなりおもしろい作品だったと思う。
はじめの部分を読んでいるとちょっと心配になる。
異常変態セックスに異常暴力衝動にヤクザものの話なのか・・・

ところが序盤を過ぎるとその様相が変わってくる。
そういうものを奥底に秘めながらも、それぞれのキャラクターが、
いろいろな矛盾や苦悩を抱えながら生きていくといった風な、
わりにまっとうなストーリーに変化していき、
かつその展開のおもしろさにどんどん惹きつけられていく。

はじめ不気味な存在だった主人公の義兄アキラが、
実に愛くるしい存在へと変化していくし、
ソープ嬢の由美の登場で、よりアキラの孤独が鮮明になっていく。
主人公もさることながら、この「アキラ」というキャラクターのおもしろさが、
この物語を引っ張っていく。

この物語の1つの目的でもある逃げた妻を捕まえるというのがあるのだが、
この妻の心理だけはちょっとわかりにくかった。
ま、物語を展開させていく上では欠かせない存在なんだけど、
アキラのように普通ではないけど、だんだんとその心理が理解できるようになる、
という仕掛けがなかったので、ま、それは仕方がないのかな。

時折、物語に交ぜ込んでいるちょっとした会話とかもおもしろくって、
へえーなるほど、なんて思ったりする部分もあるけど、
「ブルース」のような圧倒的な濃密さはない。
ただ、ほんと先はどうなるんだろうか?ってどんどん読みたくなるし、
キャラクターそれぞれが生き生きしているし、よくできた物語だと思う。
おすすめの一冊だな。

笑う山崎
テーマとか文学とかそういうことではなく、
エンターテインメント小説として申し分なくおもしろい。
非情な暴力シーンのあまりにも鮮明な描写はどうかと思うけど、
そういうことを書けるってのはまあすごいんだろうな。

この本を読んでいると関心することが多い。
ヤクザのメンツっていうか人間の本性っていうかをよく見事に描いている。

たいして強くもないのに周囲から恐がられている山崎の何が違うか。
それは「意志」だという。それがすごく心に残る。
人間は「意志」の動物なんだな。
やってやるぞっていう意志の強さで何事も決まるんだな。
中途半端な輩が多い中で、周囲の誘惑に負けず、楽な道に走らず、
いやいやではなく好きで好きで仕方がなくてやってしまえるような、
強固な意志力が人間を突き動かし、その行動や成果となって現れる。

ま、そんな難しいテーマうんぬんは別にして、ほんとこの本はおもしろかったな。

吉祥寺幸荘物語
貧乏アパートに住む作家志望やミュージシャン志望の人たちの物語。
よくある設定といった感じで読みやすいは読みやすい。
いきなりの暴力シーンにどうなることやらと思うが、
その後はひたすら童貞君の性遍歴話となり、そこはなんとなくおもしろく読み進められる。
人間関係における上下というか駆け引きというか、
言葉のやりとりというか、そういったあたりは非常におもしろい。
ただあっさり彼女ができてしまったり、
ラストの方であまり重要でない登場人物の死があったりして、
なんかそれほど盛り上がらず、意味もなく終わってしまって、
花村萬月らしからぬ、底の浅さだなと不満が残る。

ま、読みやすいは読みやすいし、
あまり深く考えるテーマを追わないならこのぐらいの本でもいいのかもしれないが、
それでもやはりちょっと底が浅いかな。

わたしの鎖骨
短編集ゆえ、すごく物足りない気がするな。
もっと長いものを読みたい。
花村萬月は短編より長篇の方が向いてるんじゃないかと思う。
この中ではわりと長いロックバンドの話が一番おもしろかったが。

紅色の夢
ちょっと変わった姉妹の物語。
ものすごい異常性のある人たちではなく、
コンプレックスとかほんのちょっとずれてしまっていることからはじまる、
日常からの逸脱物語としては実におもしろい。
それなりに物語の展開もあって、この先を読みたくなる部分もあるし。
ただ、ラストの結末はどうなのかなとちょっと疑問に思わなくもないが、
ま、そういう結末しかあり得ないのかなと納得できないわけではない。
スマッシュヒット程度のものとして、そこそこ楽しめるものだ。

ジャンゴ
はじめ読み始めると、花村作品でも最もつまらない部類の芥川賞受賞作品、
「ゲルマニウムの夜」の再来を思い起こさせ、途中で読むのをやめてしまおうかという衝動にかられる。
異常暴力、変態性愛。
それが人間の本質だっていわれても、あまりに現実感からは遠く、
一部の狂人的世界としか認識できない。

ところがその冒頭の部分を越えると、少しずつましになってくる。
特に、異常な登場人物の異常な行動を「アホじゃないか」と思う、
読者の視線を持った人物の登場で、読者に共感を覚えさせるのだ。
また異常な行動をとった人物たちの幼少期の背景がわかると、
なんとなくは理解できるようになる。

非常におもしろいのは、指をなくしたミュージシャンが、
それでもギターを弾けることの賞賛に対して「障害者の気持ちがわかった」と、
その心理を解説しているところ。
五体不満足な人間が健常者と同じことをやれるから拍手するのであって、
人並み優れた才能があるから拍手するのではない。
それは健常者が絶対に自分たちには追いつかれないという見下した視線から、
発生するものだという部分だ。

確かにそうかもれない。
そういう無意識の奢りと同情による賞賛という名の差別がまかりとおっている。
それが障害者という登場人物に語らせているのではなく、
もともと健常者だった人間が指をなくすことによってはじめて悟ったという形で書かれているから、
説得力がある。

それともう1つは、覚醒剤をはめるシーン。
ある女性を覚醒剤中毒に陥れるために、強制力ではなく、
「あなたには覚醒剤はあげられない」という逆のことをいって相手に興味を持たせて、
自発心を煽るという方法、その心理は見事だといえる。

そういった部分部分のおもしろさはともかく、
指をなくした天才ギタリスト「ジャンゴ」になるという「復讐」劇という筋書きは、
実におもしろいなと思って読んでいくと、
そのストーリーはあっさりずれていってしまって、
単純な復讐劇へと転化していってしまったので、そういう部分ではおもしろくなかった。

部分部分で実に巧みだなと思わせるところはあっても、
はじめ、終わりともストーリーの短絡性があり、
残念ながらあまりおすすめできる作品ではない。
花村作品を何冊も読んだ読者が読めば、多少読み取れる部分はあると思うが、
そうでない読者がこれから読み始めたら、
きっと他の花村萬月作品には手を出さなくなってしまうだろうな。

風転
文庫本は上中下の3巻。
おもしろくてどんどん先を読み進めていったが、
もし花村作品はじめての人にはおすすめできにくい。

その理由は、
1:あきらかに著者の語りたいことを、
無理やり登場人物にストーリーと関係のないところで語らせている部分が非常に多い。
2:ストーリーが中だるみしている。
3:後半、むやみやたらに性描写ばかりが目立つ。
以上の理由からこれをはじめに読むと嫌になってしまう可能性が高いと思う。

上記の理由が偏差値を下げている理由でもあるのだが、
花村作品に慣れている人はまあそこそこの物語として読めると思う。
ストーリーがすごく盛り上がり、どうなってしまうんだろう?と思うのが、
中盤より手前にあるんだけど、2人がオートバイ旅するあたりから、
非常に間延びしてきて、いったいどのように終わらせるのかと思いきや、
急に結論をつけるような形で、後半少ないページで一気にけりをつけてしまうのは、
なんだかいただけない。

予想外の結末には驚いたが、なんだかちょっと物足りなさも覚えてしまう。

守宮薄緑
短編集のためどうしても物足りなさを感じてしまう。
1つ1つのモチーフを短編で終わらせてしまうにはもったいない。
特にこの人の場合、だいたい2巻以上の長編が多いので、
「えっもう終わり」と思ってしまう。

花村萬月を読んだことがない人は、この本から読むべきではないだろう。
嫌いになってしまう可能性がある。
短編のわりにはかなりキモイ描写もあり、正直あまり気持ちいいものではない。
多少おもしろい部分もあったけど。