書評By 書評ランキング

・『クミコハウス』素樹文生著
前作に比べて随分と文章が変わったな。
でもそれより何より、この人の写真はすごくいいな。
それがまず、すぐに思った感想だった。

『上海の西、デリ−の東』(素樹文生著)を書評ランキングで最低ランクにおいていた。
その著者が、同じ旅を題材にして別の書を作ったこの本は、
著者の成長のあとがはっきりとうかがえる。

旅の話の中身が、異国に対する文句からおもしろいエピソ−ドへと変わった。
ながったらしい文章から、会話を中心とした短い文章が増えた。
そしてこの本で、文章を書くより、この人は写真を中心にした方がよいということが明確となった。
彼にとって転回の一作となるのではないだろうか。

相変わらず文章に稚拙な部分が見えるが、前作とは比べものにならないぐらいよくなった。
写真は構図といい着眼点といい、きらりと光るものを強く感じさせる。

旅の話はおもしろかった。
ただもうちょっと話がいっぱいあればなということと、
ばらばらの一編一編をつなぐ工夫が欲しかったなということ。
こうなればすごく良い本になるだろうな。

彼も発展途上なのだ。
僕も書き手としては発展途上。常に前作より良いものを書いていきたいなと思った。

・『上海の西、デリーの東』素樹文生著
中国の悪口ばかり書いてあって、旅をしたいと思えないのが評価の低い理由。
僕も中国を旅したことがあり、著者と全く同じ目にあったこともあるし時には文句も言った。
この本は中国の文句ばかり書かれている。
僕もその言っている文句はわかる。

しかし中国にはこの文句があっても、旅したいという衝動を駆り立てる魅力がある国なのだ。
素晴らしい遺跡の数々や途方もない歴史と大地の広がり。
雑多な民族と、うまい中華料理。
ほんのたまにだけど、いい人もいる。
だから中国には腹が立つけど、僕は中国をかなり長いこと旅していたしまた行きたいと思う。
でもこの本にはそれがほとんど書かれていない。
これを読んで中国に行きたいと思えるかどうか。
旅本は人を旅に出たいと思わせる力があるかどうかが、大きなポイントだと思う。
この本を読んで「僕もここに行ってみたいな」と思えること。
それが旅本の意味だと思う。

・「アジア亜細亜 無限回廊」日比野宏著
カメラマンである著者が、32歳の時にアジア16ヶ国を1年半かけて旅した時の話。
「3ヶ月程度の旅と考えていたのが1年半にまでなってしまった」というあとがきに惹かれた。
タイトル通り、まさしくアジアは無限回廊。
それほどまでに長居してしまうアジアの魅力は何なのだろうかと、興味を覚え、
BOOK・OFFでたまたま見つけて50円で買ってきた。

第1章韓国、第2章台湾と、旅の時系列に沿って話が展開されていくので、
旅の連続性というかつながりがあって、まるで自分が地図をなぞるように旅しているような気分になったが、
それ以降の章は、各国でのおもしろい話がぶつ切りされて並べられているだけで、連続性が感じられなかった。

ビルマの子供の話の次には、今度はインドの山奥で寺にこもって断食した話が出てきて、
その次にはインドネシアの娼婦の話になる。
章ごとに話が完全に独立してしまっいて、3ヶ月が1年半になってしまったアジアの魅力みたいなものが伝わりにくくなっている。
章ごとの連続性を出した方が読者を旅している気分にさせ、
次はどんなことが起こるのだろうかと、先を読ませる力になるのではないだろうか。

せっかく旅の連続性が1章2章では見られて期待して読み進めていたのに、
それ以降は全く単独の話が散りばめられているだけなので、1回1回で話が終わってしまって味気ない。

残念ながらこの本に限らず、旅行話本はこの手の本の構成が多い。
インドでのおもしろい話の次には、フランスでのおもしろい話が来たりして、
しかも行った時期も全然違ったりするから、1冊の本としての意味はなく、単なる短編集の寄せ集めになっているものが多い。
雑誌に時期を分けて連載したものをあとで単行本化しているから、こういうことが起きるのだろうが、
せっかく1冊の本にするのだから、そこにテーマというか企画性というか、構成の工夫があった方が、
読者の興味を惹くのではないだろうか。

そういう意味では、沢木耕太郎の「深夜特急」が旅行本の原典として今でも多くの人に読まれているのがわかる。
1年にも及ぶ旅を読者が追体験できるような構成になっているからだ。
「旅をしてみたいな」「この国に行ってみたいな」
そう思わせてくれるような本が、旅行本の魅力ではないだろうか。

しかしこうして旅行本を批評することは、言ってみれば諸刃の剣で、
果たして自分の書く旅行記はどうなのかと言われたら、自分自身もその批評を逃れられないのかもしれない。
「深夜特急」のような、読者を旅の魅力に引き込むような旅行本を読みたいし、書きたいと思う。

人生の地図 高橋歩 偏差値62
旅のフォトエッセイ。
この本はとても不思議。
よくよくみるともしかしたら写真も文もたいしたことないかもしれないんだけど、
ぱっと写真集的に見ていくと、写真がとてもよく感じる。
文章はときたま「いいな」と思えるのがあるくらいだけど、
そのぐらいの頻度で気にならない。
デザインがいいのかな。
あとは写真がモノクロないしセピア調なのがすごくいいのかもしれない。
ぱっと見ていく分には気分転換になる本です。